3尾の獣
二つの濁流にのみ込まれて、城が大きく損壊する。海属性の魔法はとにかく範囲がデカい。細かい調整なんていう器用なことがほとんど出来ないっていう珍しい特性を持っているせいなのもあるが、ウチとシャロシーユの魔法の使い方そのものが雑で大雑把っていうのもある。
「気持ち悪ぃもんだぜ。ウチがサフィーに教えたやり方をまんまコピーしやがって」
「おかげさまで海属性の魔法の使い方はバッチリだよ。良い情報媒体になってるぜぇ、お前の妹とやらはよぉ」
せせら笑うように下品な笑い声を漏らすシャロシーユ。口調が安定しないのは、コイツ自身が生まれたばかりの人格だからだろうな。
この前、ウチがサフィーに『隷属紋』をかけられた時にはまだサフィーはサフィーとしての意識があった。
だからこそのウチに『隷属紋』をかけたんだからな。アレは言っちまえばウチを独占したいっていうサフィーの欲だ。
だからあの時はサフィーとしての人格が有利、無いしシャロシーユの人格はまだ生まれてなかったんだろうよ。
それから時間が経ってか、更に『獣の力』を注ぎ込まれたからかは知らねぇけど、シャロシーユの人格が形成されたのは最近だろうよ。
つまるところ、コイツは生まれたばかりの赤ん坊ってことだ。
乗っ取ったサフィーから戦い方とか諸々の情報を抜き取って、ウチと戦っているんだろうなってのは今こうして戦って嫌でも分かった。
「だったら分かってんじゃねぇのか? いくらウチが不調だったとしても、サフィーリアはウチに一度も勝った試しは無いんだぜ?」
「お前も忘れてんじゃねぇの? この私は『獣の力』をたんまり取り込んでるってことをよぉ!!」
さっきよりも巨大な濁流が襲い掛かって来る。明らかにサフィーが操れた渦よりデカいし重い。
飲み込まれたら圧力でぐちゃぐちゃにされるのは間違いなしだ。海属性の魔法ってのはそういう魔法だからな。
なんでもかんでも飲み込んで、水圧と飲み込んだ瓦礫で敵をすり潰すのが海属性の魔法の基本中の基本。
つまり、操れる水の量がデカければデカいほど強力な魔法ってことだ。こんなのはウチどころか、他の魔法少女だって飲み込まれたらイチコロ。
デカいだけあって、まともな防御も出来たもんじゃないし、相殺だって簡単じゃない。最も手っ取り早いのは避けるってところだが。
「おらおらおら!! 避けるだけじゃいつか当たっちまうぜぇ!!」
それをバンバカ撃って来るんだから、キリがねぇよな。大規模、広範囲の無差別攻撃が連発で飛んで来るんだ。
獣らしい、雑な戦い方だが、質量で戦う海属性では結構理に適った戦い方ではある。
ウチが同じ海属性の使い手じゃ無けりゃ、な。
「下手くそかよ。記憶は読み取れても、技術が追い付いてねぇんじゃ意味がねぇな。――逆巻け!!」
『ヴォルティチェ』をぶん回して、シャロシーユが作った渦とは逆回転のそれほど大きくも無い渦を作り出す。
それを刃先に絡めながら、シャロシーユの渦にぶつけてそれを自分の渦に飲み込んでいく。
1つ、2つと飲み込んでく度にウチの渦が大きくなっていき、あっという間にシャロシーユが放った渦は全部消えて、ウチの渦として完全に飲み込まれた。
「返すぜ」
お返しにそれをシャロシーユ目掛けて放つと、城の一部を飲み込んできながらその勢いをさらに増して行く。
これの対処法もサフィーリアには教えている。海属性の魔法は渦と質量が基本の戦い方だが、このカウンター戦法も基本的な戦い方。
カウンターにカウンターで応酬してたら、最終的に負けるのは技量の低い方。それはシャロシーユのことを指すことになる訳だが……。
「そう簡単に行くわけもねぇか」
「げっぷぅ……。美味かったぜぇ、お前の魔法」
サフィーリアに教えた方法とは全く別だが、シャロシーユはこれを飲み込むことで無力化していた。
文字通り、飲み込んだんだ。でっぷりと膨らんだ身体にはさっきまであった海属性の魔法と瓦礫がたっぷり詰め込まれているんだろうよ。




