獣の力を追って
城に突入した直後、城内は大混乱に陥っていた。城内に勤務していた妖精を中心に多くの人々が暴れ始めたからだ。
「もうっ、めんどくさいわね!!」
「絶対に殺しちゃダメだからね!!」
「わかってる!! その手加減が大変なのよ、っと!!」
剣を抜かず、素手で相手を殴り飛ばしながら対応しているルビーが愚痴をこぼしているけど、絶対に剣は抜いてはいけない。
彼らは被害者であって加害者ではない。狙うのはショルシエだけ。こうやって直接息の掛かっていない、ただお城に勤めている人達を『獣の力』で暴走させているのがその根拠にもなる。
本当にショルシエの部下に相当する人物なら、暴走させる必要なんて無いしね。暴走させないと私達と敵対しない人達だから、暴走させる。
あくまでここにいる人たちは暴走させられたほとんど何も知らない一般の人達。それを襲って来たから全員殺すようなことがあれば、私達は侵略者だ。
私達は侵略をしに来たのではなく、最悪の事態を回避しに来たのだから、当然この人達との戦いは可能な限り避け、気絶などの無力化をするのが最善だ。
「鍛え過ぎも考え物だな」
「力加減が難しいね」
鍛えに鍛えまくったルビーやフェイツェイなんかはこう素人を相手にするのは逆にやりにくいだろう。
適当に殴っても、彼らにとっては致命傷の可能性が十分ある。基礎的な身体の鍛え方が違うし、特に2人はドラゴンと天狗の要素を得ている都合もあって、私達の中でも身体スペックが上。
素人のパンチなんてそれこそ指先で止めることも理論的には可能だろう。そのくらいの子供と大人ほどの力の差がある相手にする手加減。しかも相手は暴走させられているせいで常に全力フルパワー状態。
そういう相手に手加減というのは本当に難しい。
「文句言っても仕方ねぇ。とりあえず塊まってると先に進めないし、分散していくぞ!!」
「ここは僕が足止めするっす!!」
「お願いします!! ルビー、フェイツェイ、グレースアはノワールと昴さんのところへ出来るだけ早く進んでください!!」
クルボレレがこの場を抑えることを提案し、アメティアがそれを了承。狼煙が上がっているノワールと昴達がいるだろう方向へは対ショルシエに特化した3人を送り込むことを指示して、私達は別れていく。
「――行ってください!!」
私達に殺到して来る城の勤務者たちをクルボレレが自慢のスピードでほぼ一瞬で全員を吹き飛ばすと身動きをするだけのスペースが出来る。
そこに身体をねじ込むようにして飛び出した私達はようやく入口のホールから抜け出すことが出来た。
「……彼女のパンチで何人か大怪我してやいないかい?」
「クルボレレさんはその辺上手ですから問題ありません。素手での戦いでは彼女ほどの使い手もそういませんか」
クルボレレの高速戦闘ははた目から見ると結構ド派手で、吹き飛んだ人達の容態をリアンシさんが気にするのも分かる。
ただアメティアの言う通り、彼女は素手での格闘戦なら私達の中で最も優れている魔法少女。圧倒的加速能力とトップスピードからの制動能力から繰り出されるパンチやキックは寸止めもバッチリだ。
あの吹き飛んだ人達はその寸止めの衝撃で吹っ飛んでるのが殆ど。実際に直接ぶん殴られていたら、壁ごとぶち抜いて即死だろうし。
「そ、私達も行こう。まずはショルシエがどこに隠れているのかを探さないと」
「全く、面倒だよ。この力、使うの結構疲れるんだからね?」
「文句言ってないで仕事してください」
「婚約者が一番辛辣なのちょっとおかしいと思うんだよね」
リアンシさんの『繋がりの力』は視る力。人と人の繋がりそのものを視覚化してどういう関係かを見る力だ。
これを使って暴走させられている人達が繋がっている先を辿ればショルシエに必ず出会える、というわけだ。




