帝王レクス
「ブレーダー!! ブラザー!! 早く!!」
「わぁってる!!」
ともかく、やっとの思いでショルシエをあの場所から離すことが出来た。
蹲るお兄さん、帝王レクスを運び出すには今しかチャンスが無い。
追撃に備える私とシルト、そしてノワールさんはショルシエに集中。
ブレーダーとブラザーに帝王レクスは任せるしかない。
「兄さん、ちょっと乱暴に行くよ!!」
「ふ、言うようになったなヒョロヒョロのくせに。少しは鍛えたか?」
「兄さんほどではないけどね」
少し乱雑に帝王レクスを肩に担いだブレーダーを見て、私達はジリジリと後退の準備を始める。
まだショルシエの姿は吹き飛んだ先から見えていないけど、あんなのでどうにかなる相手じゃないのは分かってる。
逃げる時が一番全力だ。相手は本気で追ってくる。逃げの一手に全力を注ぐ、その一瞬のタイミングで全てが決まる。
そう考えていた私が、私たちが甘かった。
「きゃっ?!」
「ぐわっ?!」
知覚出来なかった。攻撃が通り過ぎたその瞬間まで私達は何の反応も出来ずに固まっているだけで、通り過ぎた時の衝撃で吹き飛ばされた。
続いて聞こえたのはブレーダーの声で、同じように吹き飛ばされた音と床に転がる音が聞こえて来る。
「愚か者どもが。どうも貴様らはこの私を出し抜くつもりだったようだが、一つ失念しているぞ?」
攻撃を放ったのは勿論ショルシエ。その尾にはブレーダーが肩に担いでいたはずの帝王レクスが力無くぶら下がっていて。
「貴様らとのコレは戦いではない。遊びだ。私が、貴様らで遊んでやっているだけのこと」
ただ瓦礫の中を歩いているだけなのに、私達が受ける威圧感はさっきとは比べものにならない。
なに、これ? 魔力じゃない。もっと別の物凄く嫌な気配のする力。これが、『獣の力』……?
冷や汗が頬を伝う。明らかにショルシエは機嫌を損ねていて、面白くなさそうな表情でゆっくりと私達のところへと歩みを進める。
そのために強まる圧力にシルトの盾を持つ手が震え始めている。
不味い、このままじゃ防御の要から崩れる。
どうするかと焦る私。その横を今度は星属性の魔力のレーザーが通り過ぎて行く。
「かくれんぼも見飽きたぞ!!」
ただそれすらも片手で弾き飛ばし、更にはノワールさんの姿を隠していた光と砂の壁をも壊してしまう。
いくら隠密用のマントに身を包んでいるとはいえ、そこにいること自体を察知されたら隠れようがない。
「そらっ!!」
「あぐっ?!」
「ノワールっ!?」
『バスターモード』と呼ばれる状態から、通常の狙撃の態勢に戻っていたノワールさんにショルシエの攻撃を避ける術は無く、魔力塊の直撃を受けて床を転がる。
それを素早く尾を使って捕えると、宙吊りの状態にさせられてしまった。
「未来視の力はまだ不安定なようだな。しかし、完全に目覚められても面倒だ……」
良くないことを考えているのだけはわかる。捕らえたノワールさんを舐め回すように見てから舌なめずりをするショルシエのそれは、まるで捕食対象を前にした獣のよう。
ノワールさんは気を失っているのか、身体に力が入っていない。あのままじゃどう考えてもヤバい。
けど打開策のひとつも思い浮かばない。
私達の力じゃ、あそこに届かない。
そんな現実が何とかさっきのダメージから回復したブレーダーの悲痛なノワールさんを呼ぶ声にも篭っていて。
「よぅし、決めたぞ。よく見ておけ!! 貴様ら遊びの玩具如きが私に歯向かうとどういう目に遭うか、見せつけてやろう!!」
「……!!」
「やめろぉぉぉぉぉっ!!!!!!!」
その恐ろしい魔力を伴った尾でノワールさんに狙いを定め。
「……くくくく、ははははは!!!!」
「かはっ……」
放たれた尾は、それを庇った帝王レクスにより止められた。その身体を、盾にして。




