帝王レクス
「シルト、大丈夫?」
「はーっ、緊張しました。はい、大丈夫です」
身体を張って私のことを守ってくれたシルトメモリーに声をかけて、他のメンバーこともチラリと目を配る。
ブラザーとブレーダーは帝王レクスを救出すべく、機会を伺っている様子。
何せ帝王レクスがいるのはショルシエから5m程度しか離れていない、目と鼻の先ってヤツだ。
ノワールさんは空中で狙撃の態勢をとって私達を援護してくれている。
光の壁と砂の乱反射、そして隠密用に配られたマントを併用することでこの距離でも姿を隠すことに成功した。
それに加えて砂と光の壁を色んなところに配置することで狙撃位置もバレないようにしている。
即席の連携では十分過ぎるくらいだと思う。無言のやり取りだったけど、ノワールさんはすぐに意図を汲み取っていて凄いよね。
戦いの中で一々会話で連携していられるほど悠長じゃないこともあるだろうし、私達も短い中で何度もあった。
それでも昨日の今日で組まされた、しかも格下のペーペーの新人の意図を正確に汲み取る能力は本当に凄いと思う。
たくさんの戦いの中で得たスキルなんだろうな。私より年下なのにものすごくしっかりしてるし、魔法少女はやっぱり超のつくエリート揃いなんだと実感する。
そこに混ぜてもらってること、大仕事を任されてること、何より目の前の強敵に挑まなきゃいけないこと。
全部がとてつもないプレッシャーで正直なところ出来る自信は全然無い。
何せ、ショルシエというラスボスをこうして直接目の前にして、その力の巨大さと得体の知らなさに吐き気を催しそうなくらいだからだ。
感じたこともない量の魔力とプレッシャー。魔力量なんて意味不明だ。真白さんや紫さんもとんでもない魔力量だと感じていたけど、ショルシエのそれは桁が違う。
天井知らずのなんちゃら、なんて聞くことはあるけど実際に天井知らずなことがあってたまるかと思わされる。
そのくらい魔力量がとんでもない。この場にいる全員の魔力を足したって1/10にもならないよ。
「正直に言って、あと何発耐えられる?」
「……同じ威力なら10はいけます。けど、あれ以上が来たらかなり厳しいです。精々、2か3。場合によっては耐えられない可能性もあります」
「わかった。ありがとう」
ギリリと唇を噛んで悔しそうな表情をするシルトの背中をバシッと叩いて気合いを入れる。
シルトの仕事は基本的にすごく地味だ。盾を使ってみんなを守る。攻撃能力に関して言えば、どうしたって私やブラザーには劣ってしまう、防御特化の能力をしている。
だからこそ防御力には自信があるし、防御出来ないような攻撃があってしまうとシルトの出来ることは極端に限られてしまう。
でも、だからってシルトが役立たずなことなんて絶対にない。
シルトがいなければ、私達はもうショルシエに負けてる。
あのバカみたいな魔力の塊に対処出来ているのはシルト頼み。ほとんどダメージを受けることなく防ぎ切ったり弾いたりすることが出来るのは間違いなく上澄みだ。
だから自信を持って良い。私達は現時点で上手くやれている。
問題は、ショルシエにとってこの戦いは遊びだってこと。
遊びが終われば、私達なんて消し炭になるのは想像するのは簡単。
だから遊びのうちに帝王レクスを救出して、ここから脱出しなければいけない。
時間をかけず、下手に挑発し過ぎず。確実に一回でやらなきゃ私達は死ぬ。
ホント、緊張で震える。私達の命を一身に預かるシルトのプレッシャーは私より遥かに上だと思う。
「大丈夫、やれるよ。だって私達、強くなったでしょ?」
「はい、防御は任せてください!!」
焼け石に水、無駄な足掻きかも知らない。でもやらなきゃいけないし、成功させなきゃこの先はない。
さぁ、頭を使え。集中しろ。ほんの小さな変化や違和感を見逃すな。




