帝王レクス
城内を進めば進むほど、先へ行くのが難しくなっていた。
複雑な構造をしているというわけではなく、戦いの痕跡によって壁や天井が崩れて、通ることが出来なかったり、危険だったりするためだ。
中には天井から床までごっそり2、3階層ぶんくらい吹き飛んでいるところもあり、私達は迂回を余儀なくされていた。
「もどかしいね。まっすぐ行ければそんなに遠く無いんでしょ?」
「まっすぐ行ければね。一応、侵入者対策で方向とか位置関係を誤認させる魔法が発動してるから、関係者じゃないと一直線に行くのは難しいよ」
「王族ってのも大変なんだなぁ」
「いくら平和だって言っても、どの時代でも暗殺しようって人とか組織はあったみたいだからね」
へぇ、てっきり聞いた話だとそういうものすら無い平和さなのだとばかり思ってたけど、妖精界も物騒なところはしっかり物騒だったんだ。
サリナそうか。どうやったって身分差の軋轢とかはあるしね。
平和だ平和だって言っても、危険思想が生まれないわけでもないし。
「飛んで行っちまえば楽なんだけどなぁ」
「流石に僕ら全員をリベルタさんが運ぶのは難しいし、派手に動けばせっかくの隠密マントも効果半減だしね」
「焦らず確実に行こう。大丈夫だよ、きっと」
焦りたい気持ちが1番あるだろうスタンを励ましながら、私達はまた崩れた壁の横を慎重に歩きながら進んで行く。
これだけ崩れてると床が突然抜ける事だってある。昴さんの言う通り、慎重に確実に進むのが私達の最速の手段だ。
「殊勝なことだ。まさか既に潜り込んでいるとはな」
「?!」
「なんだ、テメェ?!」
でもそれを嘲笑うかのような声が私達を遮る。咄嗟にノールックで背後に【31式自動小銃】の銃口を向け、引き金を絞り、リベルタさんは足元の瓦礫を蹴り飛ばして牽制をした。
一体、どこにいた。さっきまで気配すら無かった。警戒は怠ってない。
音も無ければ、目にも視えていない。未来視を含めてだ。
「ショルシエ……!!」
「随分なご挨拶だ、星属性の魔法少女。確か『綺羅星の魔法少女』、だったかな」
ヤバいヤバいヤバい。頭の中で警鐘が鳴り響く感覚がする。
今1番避けたい相手が、そっちから出向いて来るのは聞いてない。
ショルシエはスタンのお兄さんと戦ってるハズ。まだ戦闘音は鳴ってる。魔力だって感じる。
それなのに、なんで目の前にショルシエがいる。パニックになりかけてる頭をなんとか冷静にしようと息を何度も吸って吐く。
どうする。どうやって切り抜ける。みんなを守りながら、私は戦えるだろうか。
「みんな!!」
「「おう(はい)っ!!」」
「「「『思い出チェンジ』!!」」」
答えを出すのが早かったのは昴さんの方だった。3人がすぐに変身をして、それぞれがおそらく最速で放てるだろう魔法をショルシエに撃ち込んで行く。
避けるそぶりしか見せないショルシエが着弾の衝撃で舞い上がった土埃の中に一瞬姿が見えなくなったところで、肩に手が置かれる。
「スミア、僕らも戦おう」
「でも……」
「もう既に予想外のことが起き過ぎてる。細かなところはもう修正が効かない。後は出来るだけ自分達で切り開くしかない」
そう言ってスタンは緊急用にと渡されていた狼煙を着火して外に放り投げ、自分も『思い出チェンジャー』を構える。
【『勝利』!!】
「僕の進む道の手助けをしてほしいんだ。これからも、ずっと」
【剣を掲げろ!! 信念を捧げろ!! この剣で勝利の道を斬り開け!!】
「『思い出チェンジ』!!」
怯む私に対して、昴さんもスタンも自分の意思で立ち向かって行く。
1番強いのは私なのに、1番臆病になっていたのは私だった。私が、なんとかしなきゃって思い込んでた。
パチンっと頰を叩いて気合いを入れ直す。そうだ、私はお守りをしに来たんじゃない。
戦いに来たんだ。仲間を信じないでどうする。
「『ブレーダーメモリー』。曲がらぬ信念と王道をこの剣で示そう」
ピンチが来たなら、戦って切り開く。いつだってそうして来た。




