最終決戦
ひゅうぅぅ、と音を立てながらそれぞれ降下を始める。いの一番に降下、もといほぼ落下しているのは作戦通りクルボレレだ。
早めにパラシュートを開いた私達に対して、姿勢を真っ直ぐにして高速で駆け落ち手行く。
なんだっけ、ウィングスーツだっけ? クルボレレを含んだ空中を飛ぶ能力に優れた面々はパラシュート型じゃなくて動きを阻害しないスーツ型。
飛べるけどリアンシさんを帯同させているアメティアはパラシュート型になっていたりする。
「あのスピードで着地出来るのか?」
「スピードの事ならクルボレレが一番わかってるし、大丈夫じゃない?」
ここから見る限りでもまだまだだいぶ速い。もう既に私達から離れ、地表に近いくらいなようにも思うけど、グレースアの言う通りスピード制御なら最も優れているのがクルボレレ。最速だから止まれないなんてことは今の彼女ではあり得ないことだ。
本人曰く、加速より減速の方が難しいらしい。その辺のことは分からないけど、プロフェッショナルのクルボレレが言うのだから間違いないのだろう。
「おぉ」
着地をしたと思った瞬間、クルボレレの姿が一瞬で消えた。完全に視界から消えた。この闇夜の中であの速度で動かれたら、どうしようもないだろう。
閃光の無い稲妻、と表現すればいいだろうか。クルボレレの移動と言えば雷属性由来な都合上、どうしても光が出るとばかり思っていたのだけれど、それをしなくて。
つまり最速でなくてもアレとは、味方とは言え恐れ入る。
【こちらクルボレレ。指定された中継地点へ到着したっす。敵影無し、オールグリーンっす】
【こちらアメティア。了解しました。各グループは予定した降下ポイントに到着次第、中継地点に向かってください】
ものの数分で中継地点と設定されている城壁内のスタン君の秘密基地へと到着し、ショルシエや帝国兵の存在が無いことを確認したようだ。
あっという間の出来事に驚きつつ、私達はゆっくりと降下を始める。街の中はまだまだ暗闇の中。あと数分以内に夜から昼へと一気に変わるだろう。
私達がこの時間を選んだのは闇夜に紛れて侵入しやすいから、だけではない。この切り替わりのタイミングこそが最も肝だ。
闇夜に紛れて、とは言え妖精界には夜目が利く種族が幾つもある。そういう種は数こそ少ないようだけど、夜行性の性質が強く、夜の警護などに重宝されていたりする。
首都や王都ともなれば、必ず警護に当たる人材にそれなりの数が揃えられているハズだ。ミルディース王国でも夜目の利く種族の人達、数十人が夜の警護を中心に担当してもらっていたりしたわけだ。
この夜目が利くというのは夜の間は良いのだが、妖精界の様に昼夜が突然逆転する場合、一瞬だけ目が眩む。
如何に妖精界生まれの種族とは言え、突然の光量の変化に身体が追い付いて来る訳では無いという事だ。
それを利用して、限りなくリスクを減らす。この装備は可能な限りの認識阻害の手段が込められているが、0ではない。
それを限りなく0にするためのこの時間だ。ちょうど夜間警備と昼の警備が入れ替わるタイミングでもある。
この辺りのザルさというか、人間界的には雑な警備感は平和なハズの妖精界由来の物と言えるだろう。
人間界では当然こうはいかない。監視カメラに赤外線センサー、人の目の数もまるで違うからね。
「よし、到着だ」
「焦らず行こうね」
私は幾つかのグループの中でフェイツェイとグレースアのいつものペア。残りのグループはアズール、アメティア、ルビー、リアンシ組。それとノワールとスタン君を含めたメモリースターズ組だ。
ま、連携し慣れた面々と言ったところだ。メモリースターズ組にノワールを含めたのはアシストとこういったのが上手から。スタン君は帝国首都は庭だ。こういう作戦行動に慣れていない昴達メモリースターズの面々を上手く誘導してくれるだろう。
「こっちよ。行きましょ」
障壁で地図を作って、認識阻害のコートを翻しながら路地裏へと消えていく。出来るだけ最短で行きたいが、焦りは禁物。
まずは路地裏に身を潜めながら、少し待って人が出て来るのを待とう。
人混みを使って行けば不自然さも無いだろう。




