最後の作戦会議
他にも細々としたことを詰めていく。主に詰めていったのは失敗判断をどこでするかという話だ。
撤退は即断即決であればあるほど良い。判断を誤り、引き際を誤ったがゆえに命を落とすのが戦場の常。
命を張らなければならないタイミングがあるというのも事実だが、基本的には退くときは退くのが鉄則。
そのラインの見極めと、判断ラインの徹底。そしてその情報伝達手段などなど。様々な質問とその回答。そして必要な装備が煮詰まった。
「煙の色で情報の共有というのは思いつきもしませんでした。そんなやり方があるとは……」
「狼煙って言って、人間界では大昔から使われている情報伝達手段よ。色とか煙の本数とかで遠く離れた場所に情報を伝える最も古典的な手段のひとつ、ね」
「妖精界では昔から脚の速い種族が情報伝達を担っていましたが、確かにそれよりは早くて確実ですね。やはり人間界は情報を扱うのが上手いです」
その手段の一つに発煙筒が提案されて、採用された。今回は単純に色での意思表示だ。例えば、赤なら失敗につき撤退、みたいなね。
連絡は常に配られた通信機器を通して行われる予定だけど、もし戦闘などで壊れたりしたら誰とも連絡を取れないことになる。
そういう時の緊急手段なのだけど、この狼煙というシステムにスタン君はいたく感動していた。
話には聞いていたけど、本当に古典とか歴史とか、風土とかそういうのが好きなんだな。
横で見てる墨亜は呆れ顔だけど。
「大体煮詰まって来たかしらね」
「話し合いで決めれることは大体決まったかと」
長い時間の会議のおかげで詰めれるところは詰めれたと思う。少なくとも必要な情報の共有は出来たハズだ。あとはしっかり記憶してもらって、実行してもらう。上手くいくかはまた別の話だ。
「大体話が決まったところ水を差すようで悪いんだが、良いか?」
「どうぞ真広さん。何か気になることでも?」
そろそろお開きで、作戦開始をするまで各自休養を、というところで真広から手が上がる。
こういう席で、真広が自発的に発言するのは珍しい。彼は自分の考えや行動と、実際に決まった行動などを混ぜたうえで、うまく噛み砕いて消化するのが上手い。
こうしようと思っていたけど、そういうことならこうして余裕があったらこうもしてみようという柔軟な対応を自分で考えられるタイプなのだ。
時折、自分の考えが無いと思われがちなのだが、むしろその逆で自分の考えや行動と他人のそれの良いと思ったところを遠慮なく吸収してしまうため、他人に意見するより自分の行動を最適化してしまう方が手っ取り早い。
だからあまりこういう席では発現は少なく、聞きに徹しているのだけど。そんな真広が自分からわざわざ手を挙げての発言。
姉としては珍しいと目を丸くすると同時に、何か抜けがあったのかと身構えた。
「俺は今回の強襲作戦に直接参加せずにいようと思っている」
「……何?」
ピシリと空気が凍るというか、特に千草が発する剣呑な雰囲気に周囲が呑まれたと言うべきか。
一応、私達姉妹弟の中で一番上の立場である千草が末っ子の作戦不参加表明に不満を漏らすのはまあ分かる。
この期に及んで、更にはこのタイミングで作戦に参加しないというのはふざけているのか? と思われても仕方のないことではあるだろう。
「強襲作戦には参加しないという意味だ。対ショルシエになら戦力は足りていると個人的に考えている」
「非戦闘員のリアンシも最前線に出張るんだ、ここで戦えるお前が――」
「千草、待って」
熱くなる千草と説明が下手くそな真広をそれぞれ制して、落ち着かせる。千草は話を聞かな過ぎ、真広は言い方をもう少し考えて発言して欲しいわね。
不満そうな千草を何とか宥めて浮きかけた腰をもう一度椅子のおさまらせると真広に目配せをして続きを話すように促す。
真広からはスマンと小さく返事をされて、自分の考えを口にし始めた。




