最後の作戦会議
最速で『神器』を奪取する理由は単純。これが無いとショルシエの『獣の力』に対抗することが難しいからだ。
ミルディースが繋ぐ力、スフィア公国が視る力、ズワルド帝国が断つ力。
3つ揃って初めて、妖精界で最初に『繋がりの力』を使って『獣の王』を追い払ったという初代『妖精の王』と同じことが出来るようになる。
その中で特に『獣の力』への対抗策としての比重が重いのが、ズワルド帝国の断つ力と言っていいだろう。
ミルディースの繋ぐ力は獣と人を繋いで心を分け与える力。
スフィア公国の視る力は繋がりを視認する力。
どちらも欠けることは許されない力ではあるものの、ショルシエと配下の獣の繋がりを断つことが出来るというアドバンテージの大きさは相当に大きいだろう。
また、汎用的な攻撃能力に最も長けていると言える。
断つとは言い換えれば切るということ。つまり切断。
古今東西、太古の時代ですら生き物が生存競争などの戦いの最中で武器とした、最もポピュラーな攻撃手段と言っていい。
特に帝国の『繋がりの力』と同じ能力を持つと言う『神器』。
神剣『万事を断ち斬る勝利の剣』はその名の通りあらゆるものを断ち切るという。
私の持つ『神器』。『摂理を弾く倫理の盾』とは対を為すモノだと考えれば、その能力に偽りは無い。
どんなに障壁を重ねても、まるでバターのように断ち切られるだろう。
戦う際に障壁魔法を駆使する私からすれば、破壊属性の魔法以上の天敵だ。
一瞬すら、防御は出来ないでしょうからね。
「へへっ、まるで綱渡りだな」
「本当ならこうならないようにしたかったんだけどね」
碧ちゃんの言う通り、綱渡り状態の作戦と言って良い。作戦と言うにはあまりにも細い勝ち筋を拾っていかなければならない。
本当なら、ここにパッシオ達妖精族が心強い味方としているハズだった。兵士達の訓練ももっと詰めていたし、スタン君にも訓練をする時間があった。昴達ももっともっと実力を付けてから実戦に投入していくハズだった。
言い出せばキリは無い。高みの見物を決め込み、自分で手を下さないショルシエの性格を鑑みて立てていた時間をかけて準備していくという作戦が機能しなくなった以上、穴だらけの作戦でも最も可能性があるものを使っていくしかない。
「なっちまったもんはしょうがねぇよ。なるようになるしかねえ。何より、ウチらは今が一番強い」
「それはそうね」
「違いない」
リーダーの碧ちゃんの力強い言葉に心配げな顔色になって来ていた昴達の表情が明るくなる。それに続いて、火力自慢の朱莉と千草の2人が続く。
エースには自信満々でいてもらわないとね。何より、碧ちゃんの言う事は言う通りだ。皆が皆、ここに来てこぞってパワーアップして来てくれているのは報告にも挙がっている。これは当初予定していなかった嬉しい誤算だ。
対して私と来たら能力アップなんて一つもないんだけどね。歯痒いけど、私は元々戦闘に向いていないのはずっと前から分かり切っていたこと。
皆が成長していく中で、最初に置いて行かれるのは私だと言う覚悟は随分前からしていたりする。
何より、私は皆を守るのが仕事。火力は皆に任せればいい。魔法少女になると決めたあの時から、私は魔法少女を守るための魔法少女なのだから。
「帝国への侵入経路ですが、空から行います。ドラゴンに超高高度で飛んでもらい、こちらの魔道具を使って行います」
「これって、パラシュートですか?」
「はい。認識阻害、魔力遮断、感知妨害とヤケクソ気味に開発された新装備です」
「ウチの職員が寝ずの番で作ってくれたよ。無論、私も3徹目でね」
東堂さんは寝てください。私よりも徹夜具合が酷いです。




