女王
「そろそろ大詰め、だね」
「あぁ、決戦の時は近い」
竜種の準備も間もなく万全。彼らには直接的な戦闘、というよりは世界各地に散ってもらって再度起こるであろう妖精達の暴走に対処してもらう予定だ。
あの巨体と大抵の魔法も刃も通さない鱗をもってすれば、その場にいるだけ暴れる妖精を制圧出来るだろう。
主戦場になるだろうズワルド帝国の王城に連れて行くのはごく少数のドラゴンだけの予定だ。
理由は簡単。彼らはちょっと色々と大き過ぎるから。本気の戦いになれば、ドラゴンの主だった戦い方はブレスなどの範囲攻撃になる。それ以外の攻撃も、どうしても大雑把というかやはり巨体を活かした広範囲の薙ぎ払いなどが中心だ。
可能な限り、民間人などの死傷者は減らしたい。帝国兵ですら出来れば戦闘行為は避けたいと考えている。
これは私のワガママであると同時にショルシエの目論見に乗らないためだ。ショルシエは私達に同士討ちをさせたり、無意味な憎しみの連鎖で起こる不幸をせせら笑っている。
今回の戦争で迂闊な被害者が出れば、たとえショルシエを倒したとしても憎しみの連鎖は止まらず、妖精界は戦乱の渦に巻き込まれていく可能性がある。
だから、極力死傷者は出さない。特に民間人の死傷者はNGだ。理由のない不幸ほど、晴らせない憎しみはなく、それが集まれば矛先は無差別化していく。
「気にかけることが多過ぎて頭が痛くなってくるわ」
「頭脳労働は手伝えんからなぁ……」
「肉体労働ならいくらでもなんだけどね。真白ちゃんと紫ちゃんクラスの頭の良さには私達だと中々ね」
如何せん、気にかける要素、不安定な要素が多過ぎる。だから、確実に事を進めるために今まで牛歩戦術を取っていたわけだが、それを一方的に潰されてしまった以上は多少無理をしていく戦略を取るほかない。
私が女王になる選択をしたのも、その一つ。ゆっくりと再建して行き、自然と王不在でも国家が成り立つように誘導していくつもりだった。
何年かかるかもわからないけど、それが私の王族の血筋を引く者の責務の1つだと考えていた。
私は、王じゃない。色々と半端過ぎる。不安定で明日わが身がどうなるかもわからない。
出生のこと、世界から修正を受けたことを考えれると、私と言う存在は中途半端で不安定なのだ。
世界が再び何らかの修正を必要とした時、私が邪魔になれば消去される可能性は十分にあるし、半人間半妖精という前代未聞の存在はどのくらい生きていけるのかすらわからない。
長生きなのか、短命なのか、それすらわからないわけだ。明日、突然死んでしまうことだってあると思う。子供だって残せるのかわからない。
ただでさえ姿かたちがコロコロ変わっているのだ。男性から今の姿に変わってしまうような存在なんて、吹けば消えるかも知れない。
私と言う存在は何かと不確定要素過ぎる。
それが私が女王になることを避けていた真相、って訳なんだけど。そうも言っていられなくなった。
私が女王になって、まとめ上げなければ旧ミルディース王国は本当の意味で崩壊する。そうなったらもう取り返しはつかない。
これを我が身を犠牲にした、なんては思わない。必要な選択をしただけ。今出来る最善策を心情に流されて見逃すなんてあり得ない。
「必ず成功させる。ショルシエを必ず倒す」
「当然。そのためにここまで来た」
「私と千草にとっても因縁の相手だもんね。任せてよ。次こそは、必ず倒してやるんだから」
頼もしい限りだ。朱莉、千草、要ちゃんの三人にはショルシエと直接対峙し、倒してもらう役割をお願いしている。
現状、ショルシエを倒せるだけの能力を有しているのは恐らくこの三人だからね。細かいところは今日の夜に最後の会議がある。
そこで最終調整。そしてその先は最終決戦だ。




