女王
「ま、大体上手くいったっぽくて良かったよ」
今回のミルディース王国の復活と私の女王即位の宣言。上手く行くとは思ってやってはいる。それくらいの自覚と言うか、受け入れてもらえているという認識は確かにあった。
ただそれが思い上がりだった可能性だって十分にあった。3割くらいは根拠のない博打と言って良い。博打というのは本来、可能な限り失敗する可能性を排除して、残りは運任せで行うものであって、不確定要素が多いタイミングでやるのはおバカのすることだ。
無茶苦茶やってでもスピード感が欲しかった。ミルディース王国の復活と新しい女王の誕生は妖精界全体へと広まっていくだろうけど、情報社会である人間界ほど早くはない。
遅いと半月、早ければ数日のうちにそれぞれの国や地域に伝播していくであろう。
妖精界の情報伝達速度というのはそのくらいだ。今回、周辺の国や地域に事前に書簡を送っているわけでもないしね。
いわば、勝手に建国したと主張しているようなものだ。人間界では周辺国家などに認められて国家樹立が為される側面があるけど、妖精界では強い力を持っている国家は3つだけ。
そのうちのひとつの直系だと分かっているのだから、誰かに認証を得る必要もあんまりない。というか、既に他の王族には認知されているしね。
なんならさっさと国を継げって言われてるし。わざわざ戦争中だから来賓呼ぶこともないしね。ある意味都合が良くはあるのかな。
「第一段階はクリアだろ。モチベーションアップ、団結力の向上、共通の敵を指定したことでの不和の解消。他にも色々あるだろうな」
「レジスタンスの人達も張り切ってたよ。団長と副団長を取り戻すぞ、って」
「あの2人は人望あるねぇ」
団長としてレジスタンスをまとめ上げ、旧王国の領土に残っていた帝国軍を追い払ったパッシオ。
裏方として、作戦や人員配置、物資の確保など様々な業務を請け負っていたカレジ。
それぞれ、ただショルシエと帝国に対するゲリラ兵でしかなかったレジスタンスを組織としてまとめ上げたこの2人の功績は大きく、慕われるには当然の理由がある。
「姫様が悲しむってお声も大きいのですよ。真白様にはパッシオ団長以外ありえないと」
「強火のオタクか何かがいる気配がするなぁ」
「何オタクよ……」
要ちゃんの言う強火のオタクって何に対してのオタクなのよ。ていうか、美弥子さんは何処でそんな話を聞いてきたんだろうか。
ありがたいけどね。パッシオがそれくらい慕われている証拠だし、私も認めてもらっている証拠でもある。
活力の源泉がよく分からないけど、それでモチベーションアップと団結力が高まるのは嬉しいことだ。
「しかしこれでとうとう身内から王様が2人か」
「朱莉ちゃんも思い切ったよねぇ。ドラゴン達の王様かぁ」
「あっちは竜種で一番強い奴、くらいの意味らしいけどね」
驚いたのは王になったのは何も私だけではない。私と同じように朱莉もドラゴン達の王としてその地位を宣言し、それをドラゴン達に認められたらしい。
竜王、とでも呼べばいいのかしらね。王と言っても、私みたいに為政者ではなくて里で一番強い奴ってくらいのニュアンスらしく、放っておくと自意識過剰で好き勝手やりかねない若いドラゴン達の頭を引っ叩いて回るのが主な仕事になるらしい。
あっちはあっちで大変そうだ。血気盛んな身体も力も大きなやんちゃな子達を抑えるのは想像するだけで骨が折れる。
あとは世界の平和を見守る調停者、ってところか。誰でも竜種となんて敵対したくないしね。仮にドラゴンと戦争になんてなろうものなら、一晩で首都を焼き尽くされる可能性だってある。
強い力を持つ上位種だからこそ、それを厳しく統率するリーダーが必要というわけだ。そういう点では強い正義感と自分を律する能力が私達の中でも随一の朱莉はまさに適役と言えるだろう。
「少しくらいは顔出してくれても良いのに」
「仕方ないさ。最後の追い込みだからな」
いつもならこういう席には必ずいる朱莉だけど、今回は欠席。竜王として、というよりは指導者として最後の追い込みをドラゴンと昴に対して行っているところだ。
話に聞けば、中々イイ感じとのこと。太古の妖精界において『獣の王』との戦いを経験したドラゴン達は『獣の王』との戦いから身を引く選択をしており、今の若いドラゴン達は戦闘経験が無い者が殆ど。
ブレスすら忘れてしまっているという最強の竜種とあるまじき状態に朱莉が呆れているほどだったんだけど、朱莉の厳しい指導によってモノになって来ているらしい。




