罪と罰
はあああぁ、と特大の溜め息を吐く。思い返せば思い返すほど、自分が良いように使われ続けたのだと言うのを突き付けられてる気分になっているんだろうな。
無力感にも似た何かなんじゃないかなって想像する。想像するだけだ。それが何なのかはピリアにしかわからない。言語化しても私がそれを正確に知る術はない。
100%自分の意思と感情を伝える手段って無いしね。それが出来たら誰も苦労しない。
「ここまで思い当たることに理由がありまくるとスバルと一緒にいると頭が冴えてたっていうのも何か理由がありそうよね」
「流石に無いでしょ。ショルシエのそばを離れてたからじゃないの?」
「うーん、そうでもない気がするんだけどなぁ。あ、そうそう頭が冴えるって言えばもう1人、会うとスッキリする人がいたのよね」
それは流石にこじつけだと笑ったところで、ピリアは何か思い出したみたいだ。
どうにも似たような症状を起こす人がいたらしい。会うと頭がスッキリする。これがどの程度のモノで検証も何も無い、ピリアの主観だから判断が難しいと思うけど、本人が言うんだからそれなりの効果があるってことなのかな。
頭がスッキリする。つまるところイライラが消えるってこと? 『獣の力』の影響が薄まったってことで多分合ってると思うんだけど、やっぱり具体的に検証したわけじゃないから私から見て評価するのは難しいよね。
数値化されてるわけでもないしさ。
「誰なの?」
「帝国の王様。たまーに廊下ですれ違うんだけど、あの人と会うと必ず頭を撫でられるんだよね。そして少し話をするの。思い出すと、あの後って必ず調子が良かったのよ。最近は会って無いからすっかり忘れてたんだけど、アレはスバルと会ってる時の感覚に似てたわ」
「そんなに違うの?」
「全然違うわよ。もうなんて言えば良いのかしら。ずっと目は霞んでてよく見えない上に光だけはやたら眩しいし、音は濁って聞こえるし、食べ物の味は薄くて臭いはしないし、肌に物が触ると痛いし。もう何があってもイライラすることばっかり」
これでイライラしないなんて無理でしょ? って身振り手振りでアピールするピリアの様子からして、本当に嫌だったんだなとわかる。
苦痛で苦痛で仕方がない。何が起きても不快なのは確かに常に感情を逆撫でさせるし、摩耗させると思う。
きっと周りの人が心地良いと感じるそよ風ですら、当時のピリアには受け入れがたい不快なことだったに違いない。
それが緩和すると言うのなら、確かに効果はハッキリしているのかも知れない。
『獣の力』を無力化、じゃなくても緩和してるのならこれは真白さん達に真っ先に報告する事案だ。
そこに私が勘定に入ってるのがよく分からないんだけど。私、何もしてないよ?
というか、帝国の王様ってそんなにフランクなの?
「帝国の王様、って悪人じゃないの? 聞いてる感じだとなんか面倒見の良い人なんだけど」
「え? 悪人? 全然違うって。悪人どころかあの人は善人だよ? 私の愚痴聞いてくれるし、たまにお菓子くれたりとか、部下の人達にも慕われてたし」
ピリアは私の質問に手をブンブンと振りながら、否定して来た。
むしろピリアの認識は帝国の王様は良い人らしい。
会う度に頭を撫でて、愚痴を聞いてくれて、お菓子をくれて、部下の人に慕われてる人が悪い人には確かに思えない。
でも、私が聞いてる帝国の王様は真白さんのお母さんが治めていたミルディース王国という国をショルシエと一緒に滅ぼしたんじゃないっけ?
公国にも攻め込んでるし、真白さん達とも戦っているって聞いてる。
悪の総大将の1人。これが私の帝国の王様のイメージなんだけど、随分と差がある。
「あの人が撫でてくれると、頭がスッキリしたの。もしかするとスバルと一緒に会う時よりスッキリしてたかも」
「んー、その辺も真白さんに相談してみた方がいいかな」
「お願い。私は色々知らなさ過ぎるみたいだから、何が正しくて間違っているのかわからないから」
『獣の力』への対応策になるかもしれないことがこんな事でわかるなんて。
私には判断も対応もし切れない。このことは真白さんに報告案件だね。




