最終準備
「どういうことですか? ピリアが操り人形だったってことですか?」
思わずつぶやいてしまった一言に昴が素早く反応した。友人の事ともなれば反応が鋭いものだ。自分にもそのくらい気を付けてほしいものだけど。
しかし、どう答えたものか。これではピリアにショックの大きなことが立て続けに起き過ぎている。
とてもじゃないけど個人が受け止め切れるような情報量じゃない。ポジティブなものならまだしも、内容がネガティブ過ぎていて、精神的負荷が極端にのしかかってしまう。
話すべきか、否か。
個人的にはこれ以上ショッキングな事実に触れるのは危険だと思うのだけれど……。
「詳しく、教えてもらっても良いですか?」
「……推測の域はまだ出ないわ。それに結構キツイ内容よ?」
「推測でも状況証拠ってのは揃ってるんですよね? それなら、教えてもらっても良いですか」
それとなく回避しようとしたのだけれど、本人は聞く気満々だ。自分の事を把握しておきたいという意識が強いのかも知れない。
きっとピリアの中では何を信じれば良いのか分からなくなっているハズだ。もしかするとその指針を早く見つけたいという気持ちがどこかにあるのかも。
再三言うように、あまりオススメはしない。だけど、ここではぐらかしてしまうよりはハッキリ話してしまった方が関係は良好になれるかも。
「単純な話よ。貴女はショルシエに良いように使われて捨てられた」
「それは、私が殺されそうになった時点でわかってることでは?」
「違うのよ。貴女の思考や行動まで、貴女が自分で考えて行動したと勘違いさせるように誘導していた可能性がかなり高いわ」
そう言われたピリアはよく分かっていない様子だ。これが洗脳の成果だ。自分のことは自分で考えて行動していたつもりで、ショルシエにとって都合の良い考え方、行動を自発的に取る様にコントロールされていた。
自分なりにして来た努力が実は全くの無駄で、全て誘導されていたと分かった時のショックと言うのは他人が想像するよりはるかに衝撃的なものだ。
「どうしてショルシエに与したの?」
「え? どうして? それは……、私が王家に連なっているから、ミルディース王国を復活させるのは私の役目で……」
「それはご両親とか親族から言われたの? 貴女自身はその伝承を眉唾だと言っていたのに?」
「え? あれ……? でも、私はそうしなきゃって……。あれ? え? なんで……?」
ショルシエについて質問を始めると、早速ボロが出始める。さきほどまで言っていたこととピリアの主張に分かりやすく齟齬が出始める。
ピリア自身が自分で自分の家系が王家に連なる家柄だと言う話は嘘か本当か分からない。多分、本人はただの言い伝えで本当の事じゃないと思っていたハズだ。
それがどうした。何故ピリアは自分がミルディース王国の王座につかなきゃいけないと思い込んでいるのか。
ビックリするくらい、丁寧にピリアの認知は歪められている。具体的な手法は不明だけど、相当じっくり深い部分まで思考が歪められている。
「落ち着いて、大きく息を吸って、吐いて、もう一度吸って、吐いて。そう、良い子よ。大丈夫。今の貴女は1人じゃないわ。昴、こっちに」
「は、はい!!」
「ピリアの目を見て声をかけてあげて。いつもの調子でいいわ」
「わかりました!! ピリア、大丈夫だよ。ここにいれば私もいるし、他の人達も皆優しいよ」
パニックになりかけながらも、昴の補助もあってか何とか持ちこたえる。やっぱり、話すべきじゃなかったかも知れない。
精神負荷が大き過ぎる。このままじゃピリアの精神がもたない。
悪手だったと反省する。だが、こうなればピリアも被害者だと説明できる。彼女自身の最悪の事態は避けられるかもしれないことは安堵すべき事なのかもしれない。
何が良いのか悪いのかは分からない。難しい。どうするのが正解なのだろうか。




