最終準備
【とは言え、侵入手段はあります。そこまで行く手段さえ用意してもらえれば、行けると思います】
話が少し脱線したけど、とにかくズワルド帝国の王城。その城壁にスタン君の秘密基地。もとい秘密の工房があることは分かった。
墨亜曰く、結構広いらしく多少の大人数ならそこに十分収容可能らしい。
だとするなら、そこまで行く手段があれば侵入経路としては最高の場所だ。ファインプレイものの情報に幾つか描いていた作戦のやり方に具体的な道筋ができ始める。
【あの時一緒に使った『宵闇の衣』は?】
【あの二着しか無いよ。元々帝国の宝物庫から拝借して来たそれなりに貴重な物なんだ。それに認識阻害系の魔道具がそんなにホイホイあってたまるかって。一応、製造禁止されているんだから】
【ってことは泥棒なうえに違法所持じゃん】
墨亜が言うにはその侵入に都合の良い『宵闇の衣』と言うモノがあるらしいんだけど、生憎二着しかないらしい。
しかもそれについて墨亜に突かれてスタン君がぐぬぬと唸り声をあげている。
まぁ、お行儀の良いことでは無いけどね。緊急時に必要だったから拝借して来たわけで、全部が全部クリーンにやれるなんてことは早々無いんだから、そうやって正論だけで責めてあげないの。
正論は正しいだけで、最善や最良とは違うんだからね。正しさほど、人を暴走させるものはない。
「紫ちゃん」
【はいはい。スタン君。それって今持ってます?】
【え、荷物の中にあるので手元には無いですけど……】
【あとで持って来て下さい。解析して量産出来そうなら『魔法技術研究所』に量産してもらいます。それで良いですよね、真白さん】
もちろん、それでいい。
認識阻害の魔道具。そんなに魔法の強度や効力は高くないと思うけど、そういう魔法を一から開発するより、似たようなモノから魔改造した方が早い。
叩き台にはちょうどいいでしょう。『魔法技術研究所』の研究員の人達には悪いけど、しばらくは寝ずの番をしてもらおう。
作って欲しいものや、解析して欲しいものが山とある。そのために人員も設備もお金もたんまりつぎ込んだのだから、有事の際には沢山働いてもらおう。そういう契約だし。
【人間の技術は恐ろしいね。魔道具1つくらいならその日のうちにコピーして見せるというわけだ】
「まぁ、どういうものかによりますけどね。コピー出来たら相当にラッキーです」
運が良ければ、更にその先にまで行くだろう。解析と改造は昔から日本人の十八番と決まっている。
集めているのは選りすぐりの技術者ばかり。負担は重いだろうけど、むしろこれだけの新しい技術とかその発展系を要求されて、文句を言いながら好奇心を刺激されまくって喜んでいるのが本心だろう。
【紫も混ざりたい?】
【欲を言えばそっちの方が楽しいですからそっちが良いですよ。でも、状況が許してくれないじゃないですか】
同じ技術者畑側の紫ちゃんも同じように解析と開発に回りたいのが本音だけど、ここはぐっと我慢してもらう。
今は紫ちゃんの頭脳が必要だ。私の考える作戦だけじゃ詰めが甘い。紫ちゃんが考える作戦の方が数段レベルが高いし、実効性も高いしね。
我らが司令塔にこのタイミングで欠けられたら色々崩壊する。
「思わない所で侵入の算段が付きそうですけど、スタン君。最も重要なのは別にあるます」
【は、はい】
「あなたには『神器』を奪取し、『繋がりの力』を使ってもらわないといけません。なので、スタン君は必ず帝王レクスと戦ってもらうことになります」
スタン君にはきつく、苦しいことになる。これを強要するのは出来れば避けたいとは思ってしまうが、彼の王弟という立場としても逃げるわけにはいかないし、彼は絶対に逃げないだろう。
その覚悟はさっき確認したばかりだ。
「王城に突入後、スタン君は最短で帝王レクスと接触。『神器』を奪って、妖精の支配権に対して優位性を確立します。墨亜、補助をしてあげてね」
【任せて】
【頼んだよスミア。腕っぷしで兄さんに勝てた試しは無くてね】
【偉そうに言わないで】
戦うのはあまり得意ではないというスタン君。一応、そっちにもアレコレ対策はしているけど。どこまで実を結ぶか。
「ご歓談中失礼いたします」
情報の交換と精査。そして今後の作戦の具体的な内容の詰めが進んでいく中で、部屋の外で待機していた美弥子さんが突然入って来る。
美弥子さんも今回の集まりが妖精の王族に関わるものだと言うのだけは知っているので部屋に入って来るような無粋な真似はしないのだけれど、そんな美弥子さんが部屋に入って来たと言うことは。
「ファルベガ……、以前真白さまと戦ったことのある少女が重傷の状態でサンティエの入口に来ているそうです」
緊急性の高いモノ。何より、重傷者。私の身体は周りのや情報の共有をする前に部屋を飛び出していた。
思いっきり名前間違えました……。誤:リベルタ→ファルベガです




