最終準備
【あります。それが僕がここまで来た理由ですから】
「その先も、当然見据えているのよね?」
見方によれば王弟によるクーデターだ。やり方を間違えれば後々の帝国の政治力、統治力にも影響が出て来る。
妖精界全体で見ても、歴史的な大事件になるだろう。その大きな歴史の転換期に身を投じるということは相応に過酷な道でもある。
それをわかっているのか、それだけは改めてちゃんと確認したかった。この先、彼は兄弟喧嘩の枠を大きく超える王位争いとして歴史に刻まれる。
【はい。兄を王座から降ろし、僕が王として帝国を治める。兄を倒さなければならないと思い始めた時から、覚悟しています。変わらず、これは僕の役目です】
【スタンも立派になったもんだ】
【茶化さない】
スタン君はそのあたりしっかりしている。ずっとブレていない。決めたことは決めたとブレず、そしてそれを恐れない。
お兄さんと戦うことになっても、王弟としての役割を全うする。
その覚悟は王族として育てられたからこそだと思う。普通の兄弟なら兄弟間で血を血で洗う争いなんてしたくなんて無い。
それ自体はスタン君も変わらないだろうけど、最悪は常に想定されている。殺し合いも辞さない。
私には難しい覚悟だろう。これが、生まれてからずっと王族として育って来た人の覚悟か。
凄いな。私も負けてはいられないなと思う。私も王族としての責務を果たすと決めた以上はそれ以上の覚悟と努力をしなければならない。
「今後の方向性として、間違いなく私達は帝国に直接攻め込むことになる。本当に本当の最終決戦がズワルト帝国の王城で始まることになるわ」
【王城で、ですか】
【民を巻き込むわけにはいかないだろう。それに民間人にいる妖精の数がいればいるほど、僕らには不利になる。ショルシエが獣の力を振るうだけで妖精達が暴走するんだから】
【成程……】
戦場はショルシエがいるだろうズワルド帝国の王城。つまりスタン君にとっては我が家が戦いの場になるわけだが、クーデターというのはそういうものだし、リアンシさんの言う通り周囲に民間人。特に妖精が不特定多数いる状況は避けなければならない。
ショルシエは一切気にしないだろうが、私達はそれだけで時間もリソースも割かされる。その隙に何をされたもんかわかったもんじゃない。
民間人は巻き込まない。直接、いきなり王城に攻め込む必要がある。
【ねぇ、スタン。あそこ使えるんじゃない?】
「あそこ?」
【うん。スタンってば、帝国の王城の城壁に秘密基地作ってるの。あそこまで行ければ、一気に王城の中まで行けるんじゃない?】
【確かに。あそこには中に入るための通路もあるしね。問題はどうやってそこまで行くかだけど……】
ちょっと待って。城壁の中にに秘密基地? 中に通じる通路? ここに来てそんな都合の良い存在がわかるなんて驚きなんだけど。
というか、スタン君何をやってるの? 人畜無害そうな見た目に反して案外やんちゃ坊主なのね……。
【相変わらずそういう変なことをしてるのか。相変わらず落ち着きのない遊びをしてるね】
【秘密基地は男のロマンですよ。実際、ショルシエや兄上の目を盗むには都合が良かったですから役に立つもんですよ】
呆れた声でスタン君の秘密基地に突っ込むリアンシさん。どうやら昔からこういう調子らしい。
そう言えば、趣味は遺跡巡りと調査だって言ってたわね。
色んな意味でロマンチストなのだろう。城壁の中に秘密基地を作ったのも、たまたまその中に入れるような入口を見つけてワクワクしたとかそんな感じだろうか。
【男の人ってずっと子供のままですよねぇ】
【ウチのクラスの男子は中学生にもなってカブトムシがどうとか言ってましたよ。なんだっけ、ヘラクレスがなんとかとか】
「まぁまぁ、出来るだけ趣味は許してあげるモノだよ」
とは言え、男の人から趣味を取り上げるのはNGなのでね。否定しちゃダメだよ。




