最終準備
【では、最後に僕から帝国の『繋がりの力』と『神器』について、可能な限り知っていることをお伝えします】
話の流れを汲み取ったスタン君は私が促すまでもなく話し出してくれた。
素直で良い子というのが彼への印象だ。何事にも真正面から向き合う実直さは見聞きしていて気持ちが良くなるものだ。
【と言っても、僕の知る『繋がりの力』と『神器』の能力はほぼ同一のものです】
【へぇ? というとどんなものなんだい?】
【『神器』は剣。神剣『万事を断ち斬る勝利の剣』と言い、能力はシンプルにあらゆるモノを斬ります。そして『繋がりの力』はその繋がりを断つことです】
スタン君の言う通り、『繋がりの力』と『神器』の能力が限りなく近い。なんならほぼ同義であると思った。
ミルディース王国のそれらは全く関りの無いものだし、スフィア公国のも無いと思う。視る力と宝玉でどんな関連性を見出せと言われてもね。
宝玉の形がレンズ型で覗き込むとかでも言われない限りはスフィア公国の『繋がりの力』と『神器』は関連性が無さそうだと考えても良い。
だが、ズワルド帝国の『繋がりの力』と『神器』の能力は私達のとは違って限りなく近いもので、そして何より最も攻撃的な能力だった。
「全てを断ち切る剣。恐ろしいわね」
【同感だね。それがショルシエが与する陣営にあるという事も含めて、ね】
『摂理を弾く倫理の盾』があらゆるものを弾き換える最強の盾なら、『万事を断ち斬る勝利の剣』は全てを断ち切る最強の剣。
まさに矛盾の矛と盾。突き合せたらどんなことになるのか、少し気になるところだけど絶対にロクなことにはならないからやろうとは思わない。
下手したら対消滅なんてこともあり得るし、周りに余波をばらまくだけばらまいて終わりという事もあり得る。
何にせよ、互いに人の手に余る法外の力。それで殴り合うのは避けるべきだ。抑止力の1つ、でもあるかもね。
【それにしても不思議だ。まるで同じ力を渡されても、何と言うか困ると思うんだけどね】
【僕は王位を継いだわけではないので、判りかねる部分ではありますが昔、父に質問したことはあります。曰く、この力はどちらも欠けてはいけないものだと言っていました】
「同じような能力だけど、欠けちゃいけないってことは……」
成程。そういうことか。直接的に高い攻撃能力を有しているからこそ、という事かな。これにはリアンシさんも気が付いているだろう。
きっと紫ちゃんもね。墨亜は、どうかしら。ついて来れているかしらね?
「墨亜はどうしてだと思う?」
【急に言うなぁ。でもうん、真っ先に浮かんだのは保安装置かな。無いとヤバそうだし】
【まだ若いのによく物事を理解しているものだ。流石は真白陛下の妹君と言ったところかな】
墨亜は突然のフリにも安定して答える。恐らく、その答えは正解だろう。リアンシさんも多少のからかいが含まれているとは言え、ほぼ本心からの評価だろう。
同じような能力が二つあり、そのどちらも欠けてはならない。ということは二つ揃っていないと能力を発現出来ないんじゃないかと予想する。
そうすることで、直接的かつ世界をも破壊しかねない能力を簡単に発動出来ないようにしているわけだ。
ただでさえ『神器』は血筋と名前、そして詠唱が必要だ。そこに帝国の『繋がりの力』という更に限定的な条件を付与することで何重にも鍵をかけている状態にしている訳だ。
仮に『摂理を弾く倫理の盾』が他の王族でも発動できるとしても、『万事を断ち斬る勝利の剣』は帝国の王族にしか発動できない。
つまり、『神器』を継承している王にしか扱うことが出来ない。まさに保安装置。念には念を入れた、間違った人の手に渡っても発動しないようにしてある。というわけだ。




