最終準備
【全く、恥ずかしがり屋なんだから】
【話の腰を折ってまでやることじゃないです。――後で幾らでも聞いてあげますから】
おーい、小声で言っても普通に通話に乗ってるよ。めっちゃイチャつくじゃん。知らない間にめっちゃラブラブじゃん。
なんか腹立って来たな。横にパッシオがいたら八つ当たりしてると思う。
これがゲロ甘ってやつですか。チクショウ、2人だけでイチャつきやがってよぉ……。
【お姉ちゃん、キャラぶれてる】
「おっと、墨亜も来たんだね。お疲れ様」
こちとらイチャつく相手がショルシエのせいでいないんだよ、何て言うしょうもない理由で八つ当たりしそうになっていると墨亜のいたって冷静な声が聞こえて来て、冷静さを取り戻す。
危ない危ない。柄にもないことばかり考えていた気がする。
【いや、全部漏れてたけど】
「何か?」
【なんでもないです】
よろしい。余計なことを言わないことも社交性ってヤツだよ、墨亜。
ごほん、と咳払いをわざとらしくして雰囲気を元に戻す。恐らく2人の雰囲気になっていただろう紫ちゃんとリアンシさんをそれで呼び戻して、話題は再び公国に受け継がれている『繋がりの力』についてだ。
「リアンシさんが持つ『繋がりの力』は人と人の関係性を視認出来る能力ってことで大丈夫?」
【そうだね。大体そういう感じだよ。太さで関係性の強さや相互性を、色で感情を大体表しているかな。あと絡まり方で人間関係でどのくらいのトラブルを抱えているのかもわかるよ】
「プライバシーの欠片も無いですね」
【だから普段は滅多に使わないよ。信用出来る相手ほど、使わない。僕なりの誠意ってヤツさ】
内容を聞くとまぁ、見事なまでにプライバシーブレイカーな能力だ。
相手がどういう相手と付き合いがあるのか、どんな人とどんな関係なのか、それらが一通り分かる能力は周囲の人間を信用できる者達だけで固めることが出来る為政者には最高の能力とも言える。
同時に、取り扱いには十分に注意しなければならない能力でもある。誰彼構わず使えば、人間不信になることは必至だ。
大なり小なり、人には後ろ暗い関係や繋がりがあるものだ。
一切無い人なんてほぼいないと言って良い。必ず、打算的な人間関係、マウントする側される側。騙そうとしていたり、裏で攻撃していたり、小さな不満を抱いていることなんて当たり前。
それが人の心だ。完全に満たされることは無いし、満たしてあげることも出来ない。どんなに純粋な愛の中にも打算というなの相手の立場や関係性によって生まれる地位を利用しようという考えは絶対にある。
これもまた、生きていくための本能というものだと思う。
そういうものを全部飲み込んで、上手くやっていくのが大人になるってことだ。私はそう考える。
「どうりで警戒心が異様に高いと思いましたよ。その能力が原因ですか」
【子供の頃からそんなのばかり見て来たからね。特に子供の時は能力が上手く制御出来なくてね。結構大変だったんだよ】
「苦労はお察しします」
ただ、それは時間をかけて理解をしていくものだ。ゆっくり、時間をかけて清濁併せ吞むのが精神的な成長の一種。
それを幼少期から直接、目に見える形で見せ付けられたら人間不信になるのは確定事項とまで言って良いと思う。
リアンシさんが人に対して距離を保とうとして来ていることはヒシヒシと感じることではあったが、『繋がりの力』がそういう能力だとするなら、当然の反応というか自己防衛するための対応よね。
逆によくそこまで譲歩出来るなと感心する。何度も言うように、普通なら人間不信になって引き籠りになるか、人生に絶望して自ら命を絶つことすら考えられる。
心の強い人なのだろう。自制心もさることながら、心の善性というのをちゃんと信じられるのはその能力を持っているからこそ難しく、とても強い人だと感じた。
そんな人が、気を完全に許せる人を見つけたのだとしたら、そりゃ何が何でも囲い込むか。紫ちゃんは大変だろうねこりゃ。




