最終準備
【三国それぞれに別々の『繋がりの力』と三種の『神器』、ですか】
「うん。詳細は分からなかったんだけど、それがキーポイントだと思う。何かヒントになる?」
【あると無いとでは大違いですよ。断片的な情報を繋ぎ合わせるのに絶対に必要です】
花園から戻った私達は早速、スフィア公国の書庫で調査をしてくれている紫ちゃんと連絡を取り、お母さんから得た情報を伝えていた。
その情報は紫ちゃんにとっても有益な情報だったみたいで、満足げな様子が伝わって来る。
今、紫ちゃんの頭の中では調査によって得た情報と組み合わせて、より正確性の高い情報へと昇華していっているに違いない。
【それにしても、リアンシ。同じ王族の貴方からそんな話は一言も出て来ませんでしたけど?】
【王家だけに伝わっている伝承なんだ。そう簡単に誰にでも話すわけにはいかないんだよ】
【緊急事態でも、ですか?】
【緊急事態、だからだよ。混乱に乗じてどこからショルシエの手先が潜り込んで来るかなんてわからないんだから。情報はなんでも共有すればいいわけじゃ無いんだ。それに、『神器』はともかく、『繋がりの力』が『獣の王』に対する対抗策だなんて知らなかったしね】
通話の向こう側で紫ちゃんとリアンシさんが揉めている様子も聞こえて来るけど、まぁリアンシさんの言い分は分かる。
あくまで、リアンシさん達公国と私達魔法少女協会、そして旧ミルディース王国の民達で構成された『レジスタンス』は同盟関係ではあるものの、国家運営においては部外者だ。
対ショルシエに関しては連携するものの、それ以外の分野で協力する意味は無い。
人間界の同盟でもお互いの領土や主権を守るために軍事的、あるいは経済的な連携はしても、法律の運用についてとか、国ごとにあるトラブルへの干渉は基本的にはご法度。
いわゆる内政干渉というやつになる。これが拗れたりすると国同士の仲が険悪になる原因になったりとか、良い側面は無いわけで。
これは妖精界でもあり得る話、というわけだ。余所者から自分達のルールや決まり事についてアレコレ好き勝手に言われることほど、人の神経を逆撫ですることは無い。
味方だからこそ、下手に触らない、触れない領域というのもあったりするしね。リアンシさんの婚約者である紫ちゃんからすれば面白くは無いんだろうけどね。
【それに、こんな力が役立つだなんてとてもじゃないけど思えなかったしね】
「こんな力?」
恐らく、『繋がりの力』のことを指して言っているんだろうけど、こんなに強力な力が『こんな力』なんて表現するなんて、と思ったところで私の『繋がりの力』とリアンシさんの『繋がりの力』が違うことに思い至る。
そうだったそうだった。それぞれの国で『繋がりの力』と呼ばれている能力が違うってことを知ったばかりだからどうにも頭から抜けがちになってしまう。
私と真広に受け継がれている『繋がりの力』が便利で強力でも、スフィア公国に受け継がれているモノが戦闘向きに転用出来るとは限らないのだから。
「スフィア公国の『繋がりの力』とはどんな力なんですか?」
【どんな力、か。難しいね。何と言うか、視る能力って言えば良いのかな?】
「視る能力?」
『繋がりの力』で視る、というのもなんだか変な表現だけど、それはリアンシさんも分かっていることなのだろう。
なにせ、本人が表現に難しいと言っているくらいだしね。こちらとしても、想像するのが難しい。
【人と人の繋がりを見ることが出来る。って言えば良いのかな?】
【繋がりを見る?】
【例えば、僕と紫は赤い糸で繋がっているのが見え――いでっ?!】
ごっ、と鈍い音が通話越しに聞こえて来て、リアンシさんが紫ちゃんに殴られたことを察する。
相変わらず口が達者というか、恥ずかしげもなく紫ちゃんにラブコールを送る人だ。
ちょっと羨ましい気持ちはあるけどね。人への好意を真っ直ぐ伝えられるのは良いことだと思う。軽薄に見えるのが残念だけどね。
ま、どうせ紫ちゃんも照れ隠しなだけだからこっちからすればこのやり取りもイチャついてるようにしか聞こえない。
……私とパッシオのやり取りも、もしかしてこう聞こえていたのかな。
ちょっと、考えた方が良いかな? と一瞬思った。恥ずかしいじゃん、だってさ。




