花園へ
「スリルがあってとっても楽しかったわ!!」
「ハート強すぎんだろこの女王様」
ジップライン風の移動方法が気に入ったらしいお母さんに碧ちゃんが突っ込みを入れている。いや、まぁ、昔からこんな感じの人だよ。好奇心が服着てるタイプの人だからさ。
普通に毛虫を素手で行くからね? 種類によっては毒があることがあるから良い子は絶対にやめようね。
「とりあえずこっち来て。検査と治療してあげる」
「頼む」
ここは花園だから、ここでする怪我が現実世界に反映されるかどうかはさておき。ここの傷は魂の傷とも言える。治せるなら治すに越したことは無い。
碧ちゃんを手招きして障壁の上に座らせてから、簡単な検査と治癒魔法で治療を施して行く。
あれだけド派手な勝負をしておきながらほぼ外傷がないのは流石ってところよね。
限界ギリギリまでのせめぎ合いで怪我無しでいられるのは碧ちゃんもテレネッツァさんも一流だからこそ。
雑な攻撃も防御も無かったってことだからね。
「納得は出来た?」
「一応な。やっぱ裏方ダメだなウチは。身体動かしてた方が性に合ってるわ」
「平和だとどうしてもね」
「我ながらめんどくせー性格だよホント」
そういうこと言わないの。仕方ない部分はどうしたってあるしね。タイミングとか色々あったしね。
顔役の碧ちゃんは本人の気質とは真逆に裏方に回る時間も必然的に多くなっていっていたし、平和になれば事務仕事の方が多くなるのも仕方ない。
結果として、碧ちゃんの気質や本当にやりたい事から離れやすい環境になってしまった。そして碧ちゃん自身がそれを求められている自分の役割だと勘違いして、意固地になってしまった。
私達はもっと無理矢理にでも碧ちゃんを引っ張り出せば良かったんだけど、ここ3年は私達はそれぞれ自分達のしたいことをやりたいようにやっていたしね。
仕方ない、で片付けるのは申し訳ないとも思うけど、どうにか出来たかって言われたら難しいよね。
その時、身を置いてた環境がどこが悪かったかなんて後でしか分からないもの。
「番長に仕事減らしてもらったら?」
「減らしてもらえっかなぁ。下の連中を育てなきゃいけねぇのは間違いねぇし、色々そのへんは相談だろ。まぁ、テレビ出演とかは減らすかもな」
メディア露出は確かに減らしても良いかもね。その辺は他の広報担当の魔法少女を立てても良いでしょ。
魔法少女協会もまだまだ出来たばかりだし、そろそろ一旦組織の仕組みとかを整理する時期なのかもねぇ。番長には頑張ってもらわないと。
「頭脳仕事苦手なクセに頭堅いんだから小難しいこと考えてるのが悪いのよ」
「お前は誰の味方なんだよ」
「テレネッツァ。そういうこと言わないの」
「だって見ててイライラさせられてばっかりでしたから。少しくらい文句言わせてください」
ずっと近くで碧ちゃんのことを見ていたテレネッツァさんはあんだけやっても言ってやりたいことはまだまだ山積みらしい。
それも世話焼きらしいテレネッツァさんの一面なんだろう。アレコレ口を出さないといられない性分ってわけだ。
テレネッツァの『優しさ』っていうのはこういうところか。突き放されても、嫌われても、この人はずっと他人のことを気にかけて、その人が独り立ち出来るように手助けをし続けた。
そういう人だ。私には出来ないことをやれる人だと思うと尊敬できる人だ。
「真白の方はどうだよ。なんか糸口は見つかったか?」
「ヒントは幾つか。ただやっぱり情報が足りないね。紫ちゃんとスタン君が良い情報を見つけられたら良いんだけど」
『妖精の王』と『獣の王』の関係。そしてその配下である獣と妖精の関係。3種類の神器と王家ごとに違うという『繋がりの力』についてもスタン君とリアンシさんから話しを聞く必要もある。
時間はもうあまり残っていない。可能な限り速やかに、事を進めなければいけない。ここから出たら、また集まって会議かな。
「頑張って。応援しか出来ないけど、あなたなら必ずこの状況を打破できる」
「うん」
「あと、パッシオ君は絶対に離さないこと。貴重なブレーキ役よ。あなたアクセルしかないんだから」
「わかってる」
短い時間だけど、私も碧ちゃんも有意義な時間を過ごせたと思う。活路は見え始めて来た
。
ショルシエのことも、パッシオのことも諦めたりめげたりなんてするもんか。絶対にやり遂げる。気持ちから負けてたら何も出来ないもん。
「じゃ、いってくる」
「うん、いってらっしゃい」
碧ちゃんの治療も終わって私達は花園をあとにする。さぁ、やるぞ。




