花園へ
そういう意味ではあの2人は自分のやり方に拘っている頑固者って言い方も出来る。
やっぱり、私達はそれぞれ自分達に譲れない部分があって、それが表面に出やすいか出にくいかの差があるだけなんじゃないかな。
「その中で言うと碧ちゃんは分かりにくい頑固の方、なのかしらね?」
「隠すし話さないし認めないしね……」
近しい人にはわかるんだけど、悩んでることくらいしか何となくしか分からないし、何より話さないし認めない。
一番厄介なのは碧ちゃんなのは私達の仲では共通意見かもね。
「だから無理矢理分からせる、かぁ。やり方として正解かどうかはこの際アレコレ言ってられないか」
碧ちゃんの問題は色々と根が深い。知れば知るほど、解きほぐして解決するのは難しくなっていくように感じるくらいにはややこしい。
一番最初の根っこは碧ちゃんの育った環境がシングルマザーだったところからだしねぇ。その時点で他人が干渉するところではないし、そもそも触って良いのかさえ人による。
いくら温厚な碧ちゃんだからと言って、全てがオールオッケーではない。必ずどこかに触れて欲しくない地雷がある。
碧ちゃんが自分が悩んでることがあることを周囲に話さないことだって、本人が意識しているかはさておき、触れて欲しくないから。
つまり、その周辺に碧ちゃんにとっての地雷があるからだ。それをわざわざ踏みに行く人はいない。
「時間をかけられるのなら、こんなやり方はしなくて済むのは本人が一番わかってるわ。じゃなきゃ、ここに来てテレネッツァに叩き直してもらおうなんてしないわ。本人からしても結構しんどい選択よ。私達が思うよりずっと、ね」
自分の嫌なところ、見たくないところ、見ない事にしていたことに真正面から向き合うなんて誰だってしたくない。
碧ちゃんは自分の凶暴性とか、獣の力とほぼ同質の力を使うって現実とかかな。他にも細々、私達もなんなら碧ちゃん本人ですら気が付いていない部分にすら気が付いて飲み込まなきゃいけない。
酸いも甘いもどころじゃない。清濁混ぜて飲み込まなきゃいけないのは本当に勇気のいることだ。
でも、碧ちゃんならやるよ。
「私達のリーダーはそんなに弱くないから」
「そうね。それはあなた達が一番わかってるものね」
また一層、遠巻きに見ている水の動きに勢いが増した。さっきまではテレネッツァさんの方が優勢に感じていたけど、今はもう碧ちゃんも負けてない。
むしろ、勢いを増しているのは碧ちゃんだ。防御のターンが短くなって、打ち合いや攻撃のターンが増えて行っている。
フィジカルで戦う2人の海属性使いの戦いは規模が違う。激しさを増せば増すほど、周囲の花畑は原型を失い、柔らかい表層の地面は抉れてまるで小さな海が形作られていくようにすら見えて来る。
「『獣の力』は恐ろしいわ。自分が自分じゃない何かに上書きされて消えていくような恐怖が全ての妖精に襲い掛かる。妖精以外の生き物に『獣の力』を注ぎ込む『ビーストメモリー』も使われた人は同じような恐怖を覚えたハズ」
「……パッシオも、かな」
「例外は無いわ。自分が自分の大切な人に襲い掛かってしまうことを頭では理解出来ても、身体がひとつも言うことを効かない。そんな恐怖を、誰もが味わったハズ」
息を呑む。どれほど恐ろしいのか。想像してもきっと足りない。想像なんかじゃとても間に合わない。
パッシオも他の妖精も、ビーストメモリーの被害者も同様だったことを考えると胸が痛い。パッシオ達妖精がこぞって私達の下を去ったこともその恐怖をもう味わいたくないという気持ちがあるからだと思う。
相手にも自分も、誰もが恐怖する。そんなの喜ぶのはショルシエくらいしかいない。そうなるくらいなら、身を切るような選択であってもするしかなかった。
「真白、あなた達ならこの最悪の連鎖を断ち切れるわ。必ずよ。根拠は無くても、そうだと信じなさい」
「わかってる」
言われなくてもそうする。私達はいつだってそうやって戦って来たのだから。
このふざけた不幸の連鎖を必ず私達がどうにかする。そうすればショルシエが必ず動くしね。




