花園へ
「テレネッツァは昔から変わらないわね」
碧ちゃんとテレネッツァさんの戦いを遠巻きに見ていたお母さんと私。
花畑が地面ごと抉れたり吹き飛んだりしていく様子は遠くから見ているとなんだかすごい絵面なのは変わらないけど、お母さんはこの戦いを見てなんだか嬉しそうにしているのが不思議だ。
昔を懐かしんでいる様子もあるし、まるでスポーツ観戦をしているかのような雰囲気もある。スポーツ観戦の方はこう、初々しさがあるけどね。
「楽しそうじゃん」
「なんだかドキドキするわよね。あっちで見てたスポーツ中継もよく見てたけど、あの頃はドキドキし過ぎて見てられなくて」
「あぁ……」
薄っすらとある小さい時の記憶を掘り起こすと、確かにお母さんはスポーツ中継だと途中でチャンネルを変えてしまうことがよくあった。
野球でもサッカーでもバレーとかでもだ。てっきりスポーツ中継そのものがあんまり好きじゃないんだと思っていたけど、手に汗握る緊迫した試合運びに緊張しちゃって見てられなくなってるだけだったのか。
なんというか、可愛い人だなと改めて思う。こう言うところにお父さんは惚れたのかな。残念ながら『医師』のメモリーは今は真広のところにあるから、お父さんに聞くことは出来ないけど、まあ答えてはくれないだろうけど。
「正直、怪我しないかひやひやで見てるだけでも怖いけど、ちょっとやそっとの怪我なら真白がちょちょいで治しちゃうでしょ?」
「だから安心、って?」
「そうそう。じゃなきゃ呑気に見てられないわよ」
確かに腕一本くらい斬り飛ばされたくらいならどうとでもなるけど。あの様子だとヒートアップするとそれじゃ済まない可能性もあるからなぁ。
一応、ヒートアップし過ぎないようにちょくちょく動きを止めて何か話している時間がある。
テレネッツァさんが上手くその辺をコントロールしているんだろうなって思う。碧ちゃんは他の子達に教える時ならともかく、自分の事となると鈍感で大雑把だ。
そういう部分はテレネッツァさんの方が得意だし、上手だろう。ミルディース王国の騎士団の幹部で名家の出身。長い時間人の上に立ち続けて来たテレネッツァさんの年季がモノを言うところ、というわけだ。
こういった分野で年季に勝てることはそうそうない。才能とか努力とはまた違うモノが必要だしね。
「それにしても碧ちゃんの魔法は大変ね。アレは確かにコントロールするのはとっても難しいわ」
「そりゃあね。真白もあの魔法の正体には何となく気が付いているんじゃない?」
「……一応。ただ確証は無かったし、どう伝えようかわからなくて」
「悩むわよねぇ。自分の力が『獣の王』の使う力と同じものだって言われたら事情を知っていればいるほどショックを受けるだろうし」
碧ちゃんの『固有魔法』、『WILD OUT』は『獣の王』、ショルシエの使う『獣の力』とほぼ同じものだってことには一年くらい前から薄々気が付いていた。
ただお母さんに説明した通り、その確証が無かった。1年前だと3年前の戦いから2年も経過している訳で、ショルシエから感じていたよく分からない気配と、碧ちゃんが時折放つ気配のようなものが似ているんじゃないか?
そのくらいの認識だった。こんな認識の中で何をどう伝えろと言うのか。
ヒントになるどころか、本人に更に強い混乱を招くだろうことは簡単に予想が出来た。その頃辺りから碧ちゃんが色々ナイーブな精神状態になっていたというのもある。
下手な刺激は望まない結果を生む可能性がある以上、不確定な情報を与えるべきじゃないというのが私個人の判断だった。
そのことに気が付いていたのは、多分私と可能性があるなら真広かな。同じ血筋だしさ。
「今でも、どう伝えたら良いかわからない。私だって『獣の力』を使ってるなんてそんなことを言われたらショックで寝込む自信があるし」
「『獣の力』の正体を知らないとそうなるでしょうね」
「正体?」
「そ、別に『獣の力』自体に悪性は無いわ。むしろ健全。ショルシエはそれを悪用してるのよ」
予想だにしていない部分の話に息を呑む。私はこれを決して聞き逃してはならない、これからを切り拓く大きなヒントなると直観的に確信していた。




