大海の獣
しかし、やりたい事をやれ、か。一応、リーダーらしく振舞ったり役割に徹するってのもやりたくないことを無理にやってるってわけじゃ無いんだけどな。
やりがいってのはあったしな。でもまぁ、自分を殺して、役割だけに没頭すんなってことなんだろうな。
目的と手段が入れ替わってるってのと似たようなもんなんだろう。周りに認められて、自然とリーダーとしての地位に立ったウチがリーダーらしく振舞うためにウチらしさを失ったら意味ねぇじゃんってことか。
言われてることをこうして目の当たりにしたうえで考えると、とんちんかんなことしてたんだなって思う。
今後もそれが正しいのかはまた別の話だしな。
「責任ってのもあると思うんだがなぁ」
「何も起きてないのに責任を負う事考えてたら何も出来ないじゃない。責任ってのは何か起きてから発生するものでしょ」
「そんなもんなのか?」
「少なくとも最前線はそうあるべきよ。いつ何が起こるかわからないからこそ、もしもに怯えるより起きてしまったことへの対応力の方が大事」
そこがあなたの強みだったと思うんだけどね。と言われて、自分の評価って周囲からそういう感じだったのかとまた知る。
第三者の視点で自己評価はしてるつもりだったんだけどなぁ。やっぱそういうのは苦手だわ。
ちなみにテレネッツァの言葉には基本的に同意だ。現場はその場の対応力重視だしな。後のことを考えるのは後ろで考える頭脳班だ。
「ほら、頭で考えてないで身体動かすわよ。まだまだ伝えることはあるんだから」
ウチが今までやって来たことがウチ自身にとってひたすら裏目に出続けていたってことは何となく分かった。
この前人間界に帰った時、後輩の魔法少女達を率いながら戦った時に調子が良かった理由もな。
リーダーって言葉に気負い過ぎてたってことだろ。なんでも自分でやろうとして、苦手なことまでやろうとして、イマイチ上手くいかなくて上手くやってる他の面々と比べて自信を失って、自身が無いから得意な現場に立たない。現場に行かないから身体も勝負勘も訛る。
最悪な悪循環だわな。そりゃ調子なんて一生戻らん。
ここまで言われて、テレネッツァとやり合ってみてようやく納得はした。イマイチ実感はしねぇけどな。
そのあたりは時間が解決すんだろ。自信が無くなってるのが原因だろうからな。
にして、まだテレネッツァは言いたい事があるらしい。どんだけウチに不満があったんだよ。
「まだあんのかよ」
「えぇ、あなたのその『固有魔法』がなんなのかって話をね!!」
ウチの『固有魔法』、『WILD OUT』について伝えることがあるって言いながら突っ込んで来る。
戦闘再開ってヤツだ。色々納得は出来たから、これ以上戦う理由ってのは無い気がするんだが、テレネッツァ的にはまだ足りない。
いや、その『WILD OUT』についてってのがもしかすると本題なのかも知れねぇ。
「その魔法、どういう魔法だと思ってる?」
「どういうって、理性を犠牲にして超強力な身体強化をする魔法だろ」
それ以上もそれ以下もあるかよ。その本能的な衝動に逆らわずに上手く乗ることで多少のコントロールが出来るようになるってのはさっき発見したことでもある。
小さな発見だが、デカい要素ではある。完全に暴走していたのが、理性を残しながらコントロールを失わないまで来たんだ。短時間の成果でこれ以上なんて早々望めるもんじゃない。
これ以上に何があるってんだ?
「それって妖精の『獣の力』と似てると思わない?」
「んん? いやまぁ確かに起こってることはほぼ一緒だとは思うが……。まさか、ウチまで妖精とのハーフだとか言うつもりじゃねぇだろうな」
「違う違う。そうじゃないわよ。注目するのは『獣の力』の方」
妖精が『獣の力』、あるいは『獣の王』の影響を受けて暴走したこの前の事件と『WILD OUT』は確かに似た現象だと思う。
本能に飲み込まれて獣になる。簡単に言えばそういう現象であり、魔法だ。種族的な要因か、魔法的なものかの差で現象そのものはほぼ同じだと言って良い。
テレネッツァの拳を受け止めながら、似ていることは認めるがテレネッツァが何を言いたいのかはさっぱりわからなかった。




