大海の獣
正直に言うと、受け入れがたいってのがウチの本音だ。戦闘狂って言葉の響き自体があんまり良い印象が無いってのもあるが、何よりあるのが上に立つヤツがそんな身勝手で良いのかってのがある。
戦いが好きってことは戦いに明け暮れていたいって本心があるってことだろ。四六時中、何がある訳でもなく暴れていたい。
そんなヤツだと思う。平和になればなるほど、社会には不要な存在だ。
魔法少女の顔だって言われてる奴が、いつものメンバーのリーダーってヤツがそんな自分勝手で言い訳が無いと思う。
リーダーってのは、常に全体のことをよく見て、冷静に状況を判断できるヤツの事だ。それが戦闘狂に務まるわけがないだろ。
自分勝手なヤツに誰もついて来るわけがない。
「別にそんな悲観するほどの事じゃないわよ。ずっと戦ってるつもり?」
「いや、そんなことはねぇけどさ」
「でしょ? ずっと戦ってないとそわそわして物が手につかないわけじゃない。私の言う戦いを楽しんでるっていうのは、敵を殺すことに快感を覚えてるってことじゃなくて、強敵との戦いの高度な駆け引きとか、そこから得た経験を活かして成長していくのを楽しんでるって言ってるのよ」
現に、今楽しかったのはそういう戦いだったでしょ? と言われて、それは確かにとなる。
別に殺しそのものとか、殺し合いのスリルが楽しいわけじゃ無い。高いレベルでの駆け引きが楽しかった。
読みが当たった時とか、感覚がどんどん鋭くなっていくのが面白かったのであって、命のやり取りが楽しいわけじゃない。
それは結果なだけで、ウチとテレネッツァはその過程を楽しんでるんだと思う。それもどうかとは思うけどな。
「良い子ちゃんでいようとし過ぎなのよ。誰から見ても清廉潔白な人なんていないわ。見方や言い方を変えれば、人の事なんていくらでも良くも悪くも言えるんだから」
「そりゃ、確かに」
口数が少ない人を良く表現しようとすれば大人しくて物静かな人になるし、悪く表現しようとすれば何を考えているのか分からない気味の悪い人になる。
どう評価してどう表現するかは評価表現する人次第だ。それこそどうとでも言いようがある。
うっかり悪く聞こえてしまう言い方をしてしまう時もあれば、意図的に悪く言う時だってあるだろうよ。
どんだけ万人に受けようとしても、完全に誰からも良く評価されるのは無理だ。何処にだって、悪く言うヤツとか波長が合わないヤツはいるんだから。
「散々言うけど、良く見せようとし過ぎなの。あなたはあなたの思った通りに考えて動けばいい。それがあなたに求められていることじゃないの?」
「そう、なのか?」
「じゃなかったらあなたは今のポジションにいないわ。思った通りに行動した結果が、魔法少女の顔ってポジションに至ったんだから」
今のポジションが、思った通りに動き続けた結果、か。考えたことも無かった。ウチはてっきりポジションに着いたからにはそれに求められていることを遂行しなきゃいけないと思っていた。
が、どうにもそうじゃないらしい。
「そりゃ、TPOってのはあるわよ。時と場合ってやつね。それはそれとして、そこに行けるだけの何かを持ってるからそうなったわけで、同時にそれは今まで続けて来たことが求められている結果でもある」
「常に役割に沿ったロールプレイするんじゃなくて、ウチがしたい事をしろって?」
「むしろそれが求められてるわ。役職は、まぁオマケと言うか、高い能力を認められた結果なだけで、別にそれに固執する必要はあんまりないんじゃない? だって周りから向いてるって判断された結果なんだから」
自分で自分が持っている戦いを楽しんでるって部分を見つめ直してみたからこそ、ストンとその言葉に実感が持てる。
向いていることに、やりたい事に集中力が向くのはそりゃ当たり前な自然なことだ。誰だってやりたくないことよりやりたいことの方が集中力が出る。
それを無視したらそりゃパフォーマンスは落ちるか。ましてや、得意なことに目を背けたらなおの事。
「別にあなたに求められているのは指揮だとかリーダーシップだとかじゃなくて、目の前の困難に対する集中力と、そのための行動力。なにより弱いものを絶対に守るってハートの強さでしょ?」
「……なんか、恥ずかしいんだが」
「後輩たちは皆、あなたに憧れて魔法少女になってるし、あなたの仲間はあなたが身近な存在を全力で守ってくれているから他の事に集中できる。みんな、碧の事が好きだから集まってるのよ」
いや、本当に止めない? 背中が痒いって。




