大海の獣
「すぅー、はぁー」
呼吸を整えて少しの間でも意識を集中させる。『固有魔法』だけじゃテレネッツァの猛攻に耐えられない。
奥の手に奥の手を重ねて、それが個人的に嫌いだとか不完全だからとか文句を言ってたら見切りを付けられて殺される。
今のウチはテレネッツァが用意した舞台の上で踊る以外の方法は無い。
やるしかねぇんだ。どうなってもこいつらが何とかしてくれる。そう信じて、やってやらぁ!!
「『魔法具解放』ッ!!」
ヴォルティチェを地面に叩きつけ、斧の大部分が地中に埋まる。数舜の間の後に小さな地鳴りと共に大量の水がヴォルティチェが埋まったところから噴き出してウチごと飲み込んでいく。
「『五百重波の海斧』!!」
それを薙ぎ払うように吹き飛ばしたウチの両手に握られてるのは、鎖で繋がれた二つの巨斧。
2対1組の二刀流ならぬ二斧流になって毛皮のコートを羽織ったウチの姿が現れた。
これがウチの『魔法具解放』。コイツも『WILD OUT』に負けず劣らずの欠陥っぷりを発揮している本当に最悪な『魔法具解放』だとウチは思っている。
何せ、重すぎて普通に『魔法具解放』しただけだと持ち上げることすら出来ねぇっていうクソっぷり。
そもそも持ち上げるのも無理なせいで武器にもならねぇ。ただのクソでかい文鎮だ。いや、重石にもならねぇあたり文鎮より役立たずだ。
「やっと見せたわね。全く、真っ先に取得したクセに隠し続けるなんて趣味が悪いわよ」
「バカか。使えねぇ『魔法具解放』なんて誇るどころか恥だろうが」
「そう考えるのはあなたくらいだと思うけどね」
そんな使えねぇ武装を使えるようにする方法がひとつだけある。それが『固有魔法』の『WILD OUT』を発動させること。
つまり、この『魔法具解放』と『固有魔法』はセットだってことだ。強力な身体強化魔法とそれに見合った重量級の武装は確かに理論値だけ見りゃ最大級の火力を発揮することが出来るだろうよ。
その二つともがまともに扱えないって欠陥が無けりゃな。ウチが『魔法具解放』を最大限に活用するには『WILD OUT』での暴走身体強化がセット。
使えないものに使えないもの掛け合わせたってもっと使えないのが出来上がるだけだ。
『WILD OUT』の暴走ですらウチのいつもの連中総出で出て来るようなんだぞ。それが『魔法具解放』状態とか笑えねぇだろ。
とてもじゃねぇけど使えねぇもん、『魔法具解放』出来るようになりましたなんて偉そうに言えるわけねぇだろ。
「ま、厄介よね。私が抑圧した状態の『WILD BLUE』と『DEEP BLUE』じゃそれ持ち上がらないし」
「狙ったようにな」
一番クソなのが『WILD OUT』以外の身体強化魔法では持ち上がらないってことだ。
身体強化魔法として一番能力値の上げ幅があるのが『WILD OUT』なんだよ。他の二つはテレネッツァが暴走を抑圧しているせいなのか、扱いやすくなった代わりに強化幅が少し小さい。
その差で持ち上がらなくなるんだから、狙ったようなクソバランスで成り立ってる。ゲーム的に言えばデザイナーズコンボってやつなんだろが、だからデメリットがデカ過ぎるんだよ。
考えれば考えるだけ自分の能力であるってことにイライラして来た。ハズレ過ぎんだろうが。
「さぁて、お手並み拝見と行きましょうか」
「だからなんでワクワクしてんだよお前は」
「むしろ、なんで楽しまないのかしら?!」
またテレネッツァが飛び込んで来る。同じように飛び出しそうになる足をなんとか一歩で止め、『五百重波の海斧』を持ち上げ、振るう。
金属が砕けるような破砕音が響きながら、別に何が壊れたわけでもない。敢えて言うなら割れたのは地面だ。
拳と斧がぶつかって鳴る音じゃないのが、気にしてたら負けだ。ウチらが使ってんのは魔法だからな。
さっきはここから左の拳が飛んで来たが、『五百重波の海斧』は鎖で繋がった2本の巨斧だ。
身体強化魔法の影響もあって、テレネッツァと拳とウチの斧は同じスピードでひたすらぶつかり続ける。
「強敵と戦うのって、私達にとって一番楽しい事でしょ?」
「勘弁してくれ」
不敵に笑うテレネッツァの発言はちと認めたくねぇなぁ。




