星の道導
【そうね……。理由は? と言われると一言で言い表すのは難しいわね】
問われた真白お姉ちゃんは取り乱すこともなく、至って冷静に。いつも通りの口調で考え込んでいる様子だった。
それに少し安心する。なんでかって言えば下手に取り乱したり理由が無かったりするわけじゃないって言うのがこの反応だけでわかるから。
真白お姉ちゃんがそんなことないとは頭ではわかっていても、実際にちゃんと答えてもらえるとわかるだけでも安心感は段違い、ってやつだ。
「複合的な理由ってこと?」
【そうね。単純ではないわ。まずひとつあげるのなら、立場的にも状況的にも私達にとって最も都合の良い結果を出せるのが戦争をして勝つことだから、っていうのがまず上がるのかしらね】
戦い、勝つことで最も都合の良い結果を導き出せる。それは何となくわかる。いつだって未来は勝者が決めるモノ。
中々敗者や中立的な立場の人が物事を決めるというのは無いと思う。
理由は簡単。勝った陣営が決めた方が大抵のことは上手く行く上に、早い決断が出来るからだ。
この勝敗っていうのは別に争うことだけじゃない。話し合い、競争。世の中の大体の事は差はあっても勝敗がつくものと言える。
その最も規模と影響力の大きな勝敗がつくものが戦争。
だから人類は戦争を何度もやって来た。自分達の勢力を広げるのに最も早く、確実に適しているからだ。
現代では野蛮なやり方とされているのは被害が大き過ぎるから。
今の戦争は兵器の能力が高過ぎる。ミサイル一発で何十人も簡単に殺せるうえに要衝や施設を大規模に破壊して機能停止を図れる。
世界大戦のような戦争がもう一度起こったら、下手すれば人類は地球は再起不能になる可能性がある。
だから現代の人間は踏みとどまらなきゃいけない。
現代の戦争は被害が大き過ぎる。強大で理不尽な暴力は強い憎しみの連鎖を生み、敵にも同じ目に合わせてやろうと負の循環が始まる。
だから戦争は回避しなきゃいけない。一度でも始まったらこの連鎖を止めるのはとてつもなく難しいから。
私はそういうふうに教わって来た。
【まず、人間界と妖精界の、今回の戦争には大きな差があるわ】
「同じ戦争なのに?」
【それは種族間や国家間の戦争やいざこざが国が生まれて以来、殆ど起きていなかったってこと。特に三大大国同士では全く無いと言っていい。これは奇跡的なことだわ】
「民族とかの争いも無かったって言うしね」
ただそれは人間界の戦争の話、というのが真白お姉ちゃんの主張みたいだ。
確かに古代の妖精界はともかく、ミルディース王国、ズワルド帝国、スフィア公国の3つの大国が建国されて以来、妖精界はいたって平和で争いのない世界だったみたいだ。
それぞれ、軍はあってもどうにも掘り下げて聞いてみると軍って名称だけど、どちらかと言うと治安維持部隊のような気質の方が強かったみたいで、仕事と言えば犯罪者の取り締まりとか、悪さをした魔物の討伐とか、国境の警備とか、王族の護衛とか。
日本で言う警察と自衛隊の合いの子、みたいな役割が多かったらしい。
後は高級取りなので、優秀な人が目指す職業として高い人気がある。
妖精界の軍っていうのはどうにもそういう毛色のもので、そもそも国家間で睨み合うようなものじゃなかったみたい。
【私が考えるに、そもそも妖精界の軍は妖精界の身内同士で争うための組織として立ち上げられてないんだと思う】
「んー、確かに人間界の軍とは役割とか違うけど……」
治安維持のための組織じゃないの?とは思うけど、そうすると軍って名称もおかしいのか。警察とか保安官とかで意味としては十分なのに、敢えて軍と言っている理由、か。
うーん、私の頭じゃ考えても答えは出て来そうにない。真白お姉ちゃんは一旦自分で考えてみろって感じだけど、戦うための組織に敵がいないんじゃあ……。
「あ、『獣の王』」
【正解。恐らく、三大大国の軍はかつて自分達の敵であり、妖精界から姿を消した『獣の王』に対抗するための組織として作られた。こう考えると自然じゃない?】
こういうのを仮想敵って言うんだっけか?
軍は軍でも敵が人間界と違う。とすれば妖精界で大きな争いごとが起きなかったのも理由がつく。
妖精界に住む人々にとって、常に敵とは『獣の王』のことで、隣国や違う種族の人ではない。
共通の敵が存在することで、妖精界の均衡は保たれていたわけだ。




