星の道導
私が真白お姉ちゃんの夢を諦めさせた。その事実は私に重くのしかかる。取り返しのつかないことをしたという気持ちでいっぱいになって泣きたくなってくるくらいには。
【貴女が罪悪感を覚える必要はないのよ。他の選択肢はいくらでもあった。その無数の選択肢の中で女王になることを選んだのは私自身。墨亜に選ばされたものじゃないわ】
真白お姉ちゃんがそういうのなら、それは事実だとは思う。私が勝手に罪悪感を感じるのはおこがましい考えなのかもしれない。
とはいえ、とはいえだ。きっかけになったっていうのもかなりの重圧というか、やっぱり罪悪感的なものは感じる。
いくら本人が選んだ、とは言ってもそういう風に誘導することになってしまった、とも言えるし。
【それに、やり方なんていくらでもあるわ】
「やり方?」
【別に今私がやっていることは私以外の人に任せられるし、やり方だって色々あるものよ。別に諦めるわけじゃないわ。最前線で、私自身が旗振りをするわけじゃなくなった、ってだけよ】
「……つまり、別に夢を諦めるわけじゃないってこと?」
そう聞くと「やり方はいくらでもあるって言ったでしょ?」となんだか悪戯っぽく言う真白お姉ちゃんに、私はなんだかガックリと力が抜けてソファーに座り込んだ。
抜け目が無いって言うか、もう既に真白お姉ちゃんの中で今後の展望ってヤツは見え始まっているんだろうな。
やり方はいくらでもある。別に真白お姉ちゃんにとって、夢を叶える方法は問わない。それどころか自分の手で叶えなくたって構わないってことらしい。
【私自身の手でやりたい事をやり切るのは諦めるしかないけど、手を離れても私の意思を継いでくれる人材の育成はしっかりしてある。そういう人達にそっちは任せるわ】
「流石だよね。全部計算づくって感じ」
【そんなことはないわ。ただの保険だし、人材育成は基本中の基本よ。その中には墨亜、貴女を育てることだって入ってるんだから】
それは何となくわかる。真白お姉ちゃんはとにかく私を連れまわして色んな経験をさせてくれた。
おかげで同年代の子達よりは現実が見えてるっていうか、よく分からなくなりがちな見えにくかったり、大人から隠されている世界の汚いところとかを見ることが出来た。
成長出来たと思う。見方を変えると捻くれた性格が更に捻くれたっても言えるんだけど、魔法少女には必要だと思うんだよね。
色々大人と絡むことも多いし、政治とかそういうのにも影響を受けやすいから。
「それはわかってるつもり。だからこそ、真白お姉ちゃんに聞きたい事があるの」
【それが今回の本題?】
「うん」
真白お姉ちゃんには本当に色々なことを教えてもらった。おかげで物事の考え方とか、仕事の仕方とか、そういうのを今知れてるのは絶対将来役に立つ事だと思う。
だからこそ、教えてもらったからこそ聞かなきゃいけないことだと思う。
「真白お姉ちゃんは言っていたよね。戦争はどんな理由があってもやっちゃいけないことで、避けなきゃいけないことだって」
【……そうね】
「でも、真白お姉ちゃんは今、戦争をする側にいる。どうして? どんな理由があってもしちゃいけないことじゃないの?」
戦争を否定し続けて来た真白お姉ちゃんが戦争をする側にいる。その矛盾をどう思っているのか、それだけは教えて欲しい。
……答え次第では、私はこの戦いに参加しない。そのくらいの心持ちだ。真白お姉ちゃんが教えてもらったことを私自身は貫き通したいと思うんだ。
「答えて、真白お姉ちゃん。色んな選択肢がある中で戦争をする側にいて、それを止めないのは、なんで?」
それが教えてもらったことに応えるってことだと思う。そしておかしいことをおかしいと突き付けるのも私の仕事だと思うんだ。




