星の道導
「最悪じゃなかったけど、最善でもないよ」
【最悪じゃないなら十分。最善なんてそう起きることじゃないのは墨亜もよくわかってるでしょ?】
「そうだけど……」
真白お姉ちゃんとパッシオの状況については一応知っている。パッシオが真白お姉ちゃんのためを思って、妖精達を引き連れて旧王都から離れたことは凄い事だと思うし、きっとパッシオにしか出来ないこと。
でもその選択は2人の決別に近いことだと思う。私達と妖精は相容れないんだというパッシオ側の決断と決意がそこにはきっとある。
苦渋の決断、だよ。パッシオが真白お姉ちゃんから自分から離れるなんて相当だもん。
何があっても必ずそばにいる。3年前、人間界と妖精界を繋ぐ穴を塞ぐ時だって2人ともすごく悲しそうにしていて、だから再開出来た時から2人はべったりなんだろうなってことを想像するのは当たり前のレベルだ。
真白お姉ちゃんがいたら必ずパッシオがいるし、パッシオがいたら真白お姉ちゃんがいる。離れている時間なんて一日の間のほんの数時間くらいで、それ以外はずっと一緒。
きっとそういう生活をしてたし、これからも続くと皆が思ってた矢先の出来事。
良いことなわけがないよ。そうならないために撃った弾丸は結局そんな現実を撃ち抜くことは出来なかった。
【私達は大丈夫。おかげで私も覚悟が決まったわ】
「覚悟?」
【えぇ。まぁ、本格的な王国の再興しようってね。墨亜も知ってる通り、ミルディース王国をもう一度興すって決められたのは墨亜が最悪の結末を回避してくれたからよ】
「それは違うよ!!」
ミルディース王国の再興。そして真白お姉ちゃんが女王になることを決めたのが私のおかげと聞いて、私は座っていたソファーから思わず立ち上がった。
そのニュース自体はものすごく良いことだと思う。ミルディース王国の再興は妖精界にとってポジティブなビッグニュースでその王様の地位に就くのも直系の王族である真白お姉ちゃん。
きっと誰からの文句の言いようもないし、出ることなんてほぼ無いと思う。なるべき人が王様になるだけの話、でもある。
でもそれは同時に真白お姉ちゃんが人間界での生活を捨てるっていうことにもなる。これから、真白お姉ちゃんは人間界に帰ることは無い。
妖精界で、ミルディース王国で、女王として為政者としてその敏腕を振るうことになる。
それが意味することはつまり、真白お姉ちゃん自身の夢を、真白お姉ちゃん自らの判断で諦めるっていうことだ。
流石に妖精界で女王をしながら人間界のアレコレに口を出すなんてことは難しいと思う。流石の真白お姉ちゃんでも国を運営しながら、人間界の問題の解決に尽力するなんて無茶が過ぎる。
根本的に身体が足りない。ただでさえ普通の人には再現不可能なくらいの激務を日々熟し続けて来た真白お姉ちゃんにも流石にそれは無理だよ。
どちらかを取るしかない。それは真白お姉ちゃんもよくわかっていたハズで、だからお姉ちゃんはミルディース王国を再興しても、自分が王座に就くつもりはないって話だった。
その考えを改めたさせてしまったのは私だ。誰がどう言ったって私にとってはそういうことだった。
「だってお姉ちゃんの夢は……」
【道半ば、になるのかしらね。流石の私も妖精界の国家の中枢にいながら、人間界の問題解決のために動くのは難しいと思うから。お義母さんでさえ、国会議員になってからはそっちに完全注力だしね】
私達のお母さん、諸星 光は今は国会議員をやっている。だから政治に直接関わることの難しさとその忙しさについては目の当たりにしてきた。
家でゆっくりしている時間なんてほぼない。お母さんがひと際忙しくしている可能性はあり過ぎるけど、そのくらい忙しくしている。
直接顔を合わせてゆっくり話をするなんて、一か月に一度あれば良い方だ。なんなら時期によっては2か月くらい顔を合わせないなんてこともザラにある。
国の運営に携わるっていうのはそういうこと。王様の忙しさは更にその上を行くと思っていい。
あのお母さんでさえそうなんだから、真白お姉ちゃんでも流石に両立は難しいって想像は私でも簡単に出来た。
自宅のシロアリ工事に伴ったあれこれそれが無事完全に落ち着いたので更新を再開します。
大変お待たせいたしました。
※追記※
更新に間が開いたせいで思いっきり描写に矛盾が出てしまいました。そこまで大きな部分ではありませんが修正を入れたせいで少し墨亜の心理描写に変化があります。
ご迷惑をおかけしました。




