星の道導
「スミア達、魔法少女が使っているメモリーって言うのは死んでしまった人の魂を保管するための装置、だっけ?」
「そうだね。元々は真白お姉ちゃんのお父さんが、奥さんの。ミルディース王国の女王をしていたプリムラさん、だよね? その人の魂が消えて無くならないようにするためのものだったんだって」
メモリーがどういう経緯で作られたのかは、私も話として何回か聞いたことがあるくらい。
妖精は死ぬと肉体を構成していた魔力が霧散して、骨の1つも残らない。人間界に流れ着いたプリムラさんの生きた証を残すために真白お姉ちゃんのお父さんが必死になって作ったのが『思い出』だって聞いている。
それを戦うための道具に転用したのが【ノーブル】だった。
本当なら死んでしまった妖精の遺影のような役割を果たすはずだったメモリーを魔力の貯蔵タンクとして転用した【ノーブル】のしたことは許されるべきではないと思う。
同時に、知らなかったとは言えそれを鹵獲、解析して同じように戦うための道具として利用した私達にも色々と問題がある。
それがお姉ちゃん達の共通認識。だから、【ノーブル】の技術が『魔法技術研究所』に取り込まれても、Slot Absorberとメモリーの新規製造をすることは禁止された。
その技術と知識は『魔法技術研究所』の研究員でさえ、閲覧することも研究しようとすることも許されていないんだとか。
「現存するメモリーの破棄も最初は考えてたんだけど、お姉ちゃん達とメモリーが話し合って、相互不干渉かつ他の誰かにメモリーを譲ったり、メモリーとSlot Absorberについて話すことはしない、ってなったらしいよ」
「譲渡の禁止って、思いっきり僕に譲渡されてるけど?」
「スタンは特別、ってことなんじゃない? 事情も知っているし、戦うためには必要だしね」
スタンは今回の当事者中の当事者。まさに渦中のど真ん中にいる人物でもある。魔法少女にも理解があるし、身内カウント、ってことじゃないかな。
なんの事情も知らない第三者の手に渡るのが問題なんだろうしさ。スタンなら、悪いようにはしないでしょ。
「そっか。そういうことなら、頼りにさせてもらおうかな」
「剣術の練習、しといた方が良いんじゃない?」
「そうだね。レクス兄さんみたいにはいかないけど、少しくらいはメモリーに頼らずに戦えるようになっておかないと」
戦うに当たって、地力こそが全て。どんなに遠距離攻撃が得意な魔法少女でも、訓練の基本は体力づくりから始まるのが『魔法少女協会』流の訓練方法だ。
それは多分、妖精も変わらない。スタンも体力が無いわけじゃないけど、魔法少女ほどではない。
スタンがあるのはどっちかというと持久力の方かな。旅慣れしてるとそっち方面が伸びやすいよね。
「……名も知らずに、申し訳ない。どうか、僕に力を貸してください」
『勝利』のメモリーを握りしめて、スタンはそう口にする。メモリーの中にいる妖精に声をかけているみたいだ。
そういうところ、律儀だよね。スタンらしいなって凄く思う。真面目で、誠実で、芯がしっかりしているそんなところが物凄く出てるなって行動に私は静かに頬を緩めながらその様子を見ていた。
「あ、光った」
「え?」
「『勝利』のメモリーが少し光ったよ。多分、返事してくれたんじゃない?」
一部のメモリーは声をかけたりすると反応を返してくれることがあるらしくて、『勝利』のメモリーはどうやらそのタイプらしい。
きっとスタンの真っ直ぐさを見て答えてくれたんじゃないかな。私がメモリーの中にいるならスタンがさっきしてくれた行動は物凄く嬉しいし、感動する。
そういうことを自然と出来る人に力を貸してあげたいよね。
「よろしく、お願いします」
もう一度、スタンは深々と頭を下げて、『勝利』のメモリーに挨拶するとまた少し光って答えていた。
なんだか今度はむず痒そうな反応に見えた。あんまり困らせちゃダメだよ。




