星の道導
星を見上げる。妖精界の夜は人間界のそれとはレベルの違う綺麗な星空が広がっている。
大気に排ガスとかチリとかが少ないのと、人間界の星とは原理から何から何まで違う。人間界の星の輝きは恒星の輝きとその恒星の光を跳ね返した惑星たちの輝き。他にも銀河系や星雲とかのきらめきが星空を作っている。
妖精界は亡くなってしまった人々の魂が空へと昇り、その魂が魔力の輝きを放って光っている。いずれ、その魂が輪廻転生して再び現世に舞い戻って来る、らしい。
ホントかどうかはわからないらしいけどね。
とにかく、原理が違うからか、妖精界の夜空はあまり周囲の明かりに影響されない。影響はゼロじゃないけど、人間界程じゃない。
少し離れるだけで満天の星々が真っ黒な天幕から降りて来るかのような、そんな綺麗な星空。
「いたいた。こんなところでなにを物思いに耽ってるんだい? スミア」
そんな星空の下。公国の王城も担う樹王種のてっぺんの巨大な葉の上で私は寝ころんでいた。
「これから起きる戦争について、かな」
真夜中に樹王種のてっぺんで寝ているなんて変なことをしている私の下にやって来たのはズワルド帝国の現皇帝の弟、スタンだ。
紫さんとの調査に精を出していたハズだけど、休憩かな。かなり忙しくしてからしばらく邪魔しないようにしないとなって思ってたんだけど、わざわざここに来たのなら時間があるんだろうし追い返そうとは思わない。
「そりゃ大事だね。いくらでも考えてもらった方が良い」
「一番の当事者の1人のクセによく言うよ。私なんていくら考えたって結論なんて出ないのにさ」
為政者側のスタンがなんでそんなに悠長なのさ。いや、私のことをからかおうってしてるのは分かるけどさ。
男の子ってそういうところあるよね。人が悩んでることをニヤニヤ笑ってさ。
「そんなに不貞腐れないでよ」
「じゃあニヤニヤするのやめたら?」
「コレは別にバカにして笑ってるわけじゃないんだけどなぁ」
スタンは困ったようにそう言いながら、私の隣に腰を下ろして一緒になって星空を眺める。
2人で旅をしていた時も一緒にこうやって星を眺めていることが何回かあった。
私もスタンも星は好きだ。1番は綺麗だってことだけど、なんかこう、集中出来る感じがするから。
「戦争になったらさ、スタンも戦うの?」
「そうだね。僕は墨亜みたいに強くないから敵をばったばった倒せるわけじゃないけど、戦うよ。そのための手段も無理を言って手に入れたしね」
スタンがごそごそと腰に付けたポーチから取り出したのはSlot Absorberに似た機械と1枚のメモリーだ。
Slot Absorberに似ている機械は似てるけど、結構違うところも多い。回転するところがあるし、見た目も少しなんて言うかな、コミカルになってる?
Slot Absorberが無骨なのに対して全体的に丸みを帯びている感じ。
「これは?」
「『思い出チェンジャー』って言うらしい。王国にあった研究室の元室長が、墨亜達の使ってるSlot Absorberっていうのを改造して作ったらしいよ」
「改造品? へぇ、『思い出チェンジャー』ね……」
『思い出チェンジャー』というらしいそれは最初の印象通り、Slot Absorberを元に改造された物らしい。
メモリーはそれに使うためのヤツね。何処から仕入れて来たのやら。
お姉ちゃん達の中での約束で新造のメモリーは作ってないから、空のメモリーなんて無いハズなんだけど。
「メモリーは墨亜のお姉さん。真白さんから譲って貰ったんだ。『勝利』のメモリーっていうらしいよ。剣属性の魔力を持った御仁が力を貸してくれるらしいね」
「なるほど。確かに真白お姉ちゃんには剣属性は合わないもんね」
近接戦闘となれば、真白お姉ちゃんはもったら蹴り技を中心とした格闘戦だ。
そもそも真白お姉ちゃんの障壁魔法を掻い潜って近接戦闘を仕掛けられる人なんてごくごく一部。
近付くなんてとてもじゃないけど出来ないんだから、近接戦闘でしかほぼ使い道のない剣属性は宝の持ち腐れだよね。




