巌のようにあつく、石のようにかたく
こんなところでごねたって仕方がない。俺は素直に今自分がここまで精神的に弱っている理由を話した。
妖精界に来て以来、ガンテツの爺さんに世話になっていたこと。そして爺さんが今回の事件で死んだこと。
それを目の前にして、受け止め切れていない自分がいること。
簡素ではあるが、短い時間で伝えられることは伝えたと思う。少なくとも俺は心の底からガンテツの爺さんを尊敬していた。
あの人の岩のように硬く、厚い意思ってヤツには憧れた。同じ生き方は出来ない。生まれた境遇も違い過ぎるし、時代も違う。
ガンテツの爺さんは最後まで自分がやるべきことから逃げなかった。こうすると決めたことを曲げなかった。
王家に仕え、国を守ること。民を守り、国を取り戻すこと。ずっと、爺さんはそこから逃げなかった。
3年前、流されるままに道具のように消費されていくことに何に疑問を持っていなかった俺とは全く違う。誰が見ても誇れる人生を最後まで貫き通したその生きざまってヤツを間近で見て、こうなりたいと思った。
「……もっと、あの人の下で学びたかった。まだ教えてもらっていないことは山ほどあるんだ」
俺みたいな世間知らずのクソガキをずっと目にかけてくれた。まだ俺はガンテツの爺さんの足元にも及ばない。
まだ俺は……。
自然と下がっていった視界が妙に滲む。こんなことはどうにも初めてでどうしたらいいかわからない。
この気持ちはなんだ? なんでこんなに苦しいんだ。どうしてこんなに思考がまとまらない。
こんなんだから未熟者なんだよ。爺さんなら、きっとさっさと気持ちを入れ替えている。
「……真広、良いのよ?」
「何がだよ」
「泣いて、良いのよ」
愛菜がそう言って、抱き締めて来た。痛いくらいに力いっぱい抱き締めて来て、何なんだよと普段なら悪態をつくところだが、そんな気分にもならない。
むしろ、なんでお前が泣いてるんだよ。お前は関係ないだろ。
「父親代わりの人が亡くなって、悲しくならない人なんていないわ。悲しかったら、泣いて良いの」
「悲しい?」
「そう、悲しいの。悲しかったら泣いて良いの。安心して、真広が泣いて笑う奴がいたら私がぶん殴ってやるわ」
なんだよそれ。でも、そうか。これは悲しいのか。悲しかったら、泣くのか。
そうして、俺は初めて泣いた。
「落ち着いたかい?」
どのくらい泣いたんだろうか。時間間隔なんてめちゃくちゃで何日もそうしていたような気分だ。
それを黙って待ってくれていた親父は、やっぱり懐の広い男なのだと思う。玄太郎さんも俺にとって憧れだ。この人ほど、優秀な人もそういない。
俺達は父親の玄太郎さんと母親の光さんの背中を見て育っているしな。
「スッキリしただろう」
「……確かに、妙に頭が冴えている気がする」
「ふふふ、男の涙というのは簡単に見せるモノじゃないけどね。それでも誰かのために泣ける男は良い男の証だ。覚えておくと良い」
良い男、か。時代錯誤なのかも知れないが、大事な価値観なような気もする。男が男としてカッコつけるのは悪いことじゃないってことなんだろ。
それでも、誰かの為に心が動くような男も少なくとも嫌な男では無いだろうな。
このへんは人の価値観にもよるだろうがな。
「どう? 私の演技も良かったでしょ?」
「今その話を聞かなきゃ尊敬してた」
「ふふ、女の涙は武器になるのよ。ここぞという時にめそめそ泣く女には気をつけなさい。大抵は同情を引くための嘘泣きよ」
それは肝に銘じておこう。役者なヤツも世の中にはいるだろうしな。いわゆるハニートラップってヤツだ。
俺に仕掛けるような変な奴はいないとは思うが、きっとこういう思考が危険なんだろう。愛菜みたいな女には気を付けておかないとな。
「いった?!」
「今失礼なこと考えたでしょ」
「だからと言っていきなり殴るなよ!?」
勘の鋭い女だよ。だから愛菜みたいな女には気を付けた方が良いんだろ。
もう一発殴られた。




