青くて碧い
「んで?」
「んで? ってなんだよ。主語を言え主語を」
魔法少女協会から来た迎えの車に乗り込んで、少ししてから同じ車に乗っている鼓がニヤニヤしながら聞いて来るが何のことかわからん。
ちゃんと何を聞きたいのか言えよ。何を言って欲しいのかなんてウチにわかるか。わざわざ察してやる理由も無いしな。
「ちょっとはええ息抜きになったんちゃう?」
「まるで仕組んだみたいな言い方だなオイ」
「そんなわけあらへんやろ。いくらこの鼓様がスーパーエリートな魔法少女やからって魔獣を操るなんてとんでもないことはとてもじゃないけど無理やで」
へらへらして答えてるから怪しまれんだよ。基本的に胡散臭いからなコイツ。でもまぁそんなことをする奴じゃないのはよく知ってる。
じゃれ合いみたいなもんだ。そんくらい言わないとコイツすぐ調子に乗るからな。
「ま、一番都合の良い状況になったのはホンマやけど」
「都合の良いだぁ?」
「あんさんにとって、や。ちょっとは思い出せたんやない? 総大将が総大将たる所以ってもんが」
「……」
ウチがここ数年、失ってた目標。いや、違うな。忘れてたというか、当たり前過ぎて頭からすっぽ抜けていたもの。
周りからは散々に指摘されていたことが今は何となくわかって来た。少なくとも言われて来た事は事実に近いってことは理解したよ。
膝の上ですやすやと眠っている成也とみなもの可愛い寝顔を見ながら、魔獣が出てからのことを思い出す。
自分でもビックリするくらい、いつも通りに身体が動いた。いや、3年前と同じくらいかそれ以上に冷静にそして迅速に対応が出来たと思う。
今まで悩んでいたことが何だったんだっていうくらい、自然と動けた。悩むことも怯むような事も無かった。
当たり前のことを当たり前に熟す。出来ていたことが、出来るだろうことが出来なくなっていたここ数年がバカらしくなるくらいに当たり前に身体が動いた。
「ごちゃごちゃ考え過ぎなんよ。自分、そんなに器用や無いやろ」
「確かにいつものメンツの中じゃ、あれもこれもは出来ないな」
器用か不器用かと言われたら不器用って答えるよな。少なくとも器用って言えるほどじゃない。
小手先でどうこうってより、感覚派だってのは自分でもわかってる。ただ、ここ最近は考える時間ってのが妙に長くなってたよな。
現場に出る時間が減ってた、ってのはありそうだな。
「それやのにアレコレ頭で悩んだってしゃあないやん。姫さんや紫ちゃんみたいな論理タイプやないんやし」
「どっちかと言えばアイツらが異常なんだろ」
「わかっとるやん。総大将だからって頭で考えなならんワケやない。総大将だからこそ背中で見せなきゃならないことだってあるやん? 自分、そういうタイプなんちゃうか」
「そう、かもな」
背中で見せる、か。そういうのは真白とか朱莉のやってることだとばっかり思ってたけど、ウチがやってることもそうだったのかと鼓の指摘で気が付く。
そういうつもりは全然無かったけどな。たださっきまで後輩たちが憧れとかそういう感情を向けてくれるように自分が行動していたよなって思い返す。
別にチヤホヤされたいってわけじゃない。自然とそういう風にして、後輩たちが自分をモチベーションにして欲しいって気持ちが勝手にそうさせたって感じだな。
「自分なりのスタイルってのを忘れてたぜ。変に肩肘張ってたっていうか、こうじゃなきゃいけないって思いこんでたというか」
「わかるわぁ、上に立つって大変よなぁ。下に舐められたらアカンし、かと言って厳し過ぎてもアカン。距離感ってのがムズイわ」
「理想を詰め込もうとして上手くいかないくて勝手にドツボにハマってたのかもな。まぁ、まだ明確に実感はねぇけど」
「ま、肩の荷は少しは降りたやろ」
悔しいことに肩の荷は降りた気がする。暗中模索って感じだった中に光明が差したってところかな。
もうちょい心の中を整理したい気持ちだ。もっかいお袋と翔也さんに話しをしてみるかな。




