青くて碧い
巣と女王を潰し終わった後もしばらくはあっちこっちに奔走した。魔獣化したとは言え、虫は虫。大して知能が高いわけじゃない。
巣が潰され、女王を狩られてもスズメバチ型の魔獣は逃げるわけでもなく、巣と女王を守ろうとする本能のままに襲い掛かって来るからな。
ただし、巣と女王を失ったこいつらは時間が経てば経つほどに劣勢になっていく。それを判断する知能はやっぱりない。だからただ数で突っ込んで来て、ウチらに倒されていく。
こっちも頭数を揃えた以上、時間さえかけちまえば問題ない。
「報告です。街の外周、市街、バリケード内等に該当の魔獣の姿はありませんでした」
「わかった。対魔獣バリケードと市街は今後一週間は魔獣の捜索を続けろ。身体が小さいからな。物陰に潜んでいる可能性は十分にある」
「はっ!! 3人1組のチームを3つ巡回させます」
「夜は通常で良いぞ。アイツら昼行性だからな」
マイムの報告を聞いて指示を出す。マイムもクソの付く真面目だからな。その真面目さは美徳でもあるが、欠点もデカい。
自分の限界を見誤るし、他人にも強要しちまうこともある。その辺は上が上手くコントロールしたうえで、ゆっくり育てりゃいい。
これからはウチらみたいに無理矢理強くなったり、何かをかなぐり捨ててまで強さを求めなきゃいけない時代じゃなくなっていく
ウチらが、そうしていく。
「先輩カッコよかったです!!」
「『固有魔法』のコントロールも完璧ですよね!! 水属性の魔法が渦を巻きながら魔獣を飲み込んでいくところとか本当に凄くて!!」
「水流に乗って移動するのも凄いです!! ホント、先輩達の魔法って凄すぎます!!」
一仕事終わって、協会本部に戻る中で今日の仕事を手伝ってくれた後輩たちがわらわらと囲むように次から次に話しかけて来る。
ウチは聖徳太子じゃねーぞ。もう何言ってるかわかんねーよ。でもまぁ、憧れと尊敬から来る興奮とテンションの高さは感じるよ。
ウチらも訓練はするけど一緒に実戦でやるなんてことは流石に滅多にねぇからな。こいつらからしたらプロのスポーツ選手と同じフィールドに立ったみたいなもんだろ。
「はいはい。憧れてるだけじゃ一人前になれねーぞ。超える気で来い」
一応、格好ってのは付けとかないといけねぇからな。憧れってのは一番わかりやすい目標だ。この人みたいになりたいって憧れは人によっちゃとんでもないエネルギーになる。
たまに憧れが強すぎて燃え尽きちまう時もあるが……。まぁそれはそいつ自身の問題だ。ウチに手を出せる内容は限られて来る。
「おー、皆お疲れさん」
市街地の入り口まで来ると待ち構えていたように鼓が手を振っていた。足元には成也とみなもがいる。
あんにゃろ、こんな時間まで連れまわしてたのかよ。昼寝させたのか? 途中で乳母さんに預けりゃいいのにコイツ。
「あー!! 鼓先輩、なんで手伝ってくれなかったんですか!!」
「しゃあないやろ。こんな可愛ええ子のお守り頼まれてまったんやから」
「お前、人の弟と妹をサボる口実にしてんじゃねぇよ」
やりようは幾らでもあっただろうがよ。ったく、都合よくサボりやがって。2人の面倒を見てくれたのは助かるが、やることやれってんだ。
「え、この子達ってアズール先生の弟妹なんですか?!」
「ん? あぁ、そうだけど……」
「「「「「かわいい~~~~」」」」」
マイムの質問に何気なく答えると、後輩たちが口を揃えて目をキラキラさせながら成也とみなもに視線を向ける。
そういや、弟妹がいるって話はしたことなかったか? イツメンは当たり前に知ってるから言ってるつもりになってたんだろうな。
わざわざ話すことでもないしな。お互いの家族のことなんてよっぽど仲が良くなきゃ離さないだろうし。
年上のお姉ちゃん達。しかも魔法少女に囲まれて、成也とみなももまんざらでもなさそうだ。
それを遠巻きに眺めながら、本部から来る迎えの車両を待つことにした。




