マジックチャージャー
「さて、乗員乗客の身元が割れたことで、この轟きの遺跡がかつてブルーオーシャンと呼ばれていたフェリーであることがわかった」
カツカツ、と東堂さんの靴の音が部屋の中に鳴り響きながら巨大なエンジンの前を歩きながら状況を改めて説明してくれる。
お話が結構取っ散らかりましたからね。もう一回仕切り直してくれてるのは助かります。
「ブルーオーシャンが鹿児島沖で突如消息を絶ったのは約30年前のこと。そして妖精界では約数千年前に姿を見せている。おそらくは人間界で言われるところのワームホールのような現象に巻き込まれたのだろうと推察するが、詳しいことは未だ不明」
「ワームホール?」
「最近のおとぎ話みたいなもんさ。飛行機とか船が突然姿を消したのは別の世界とか時間に飛ばされちまったってのが大体の話だな」
ほーん、そんなのがあるんすね。確かにそれが実在すればブルーオーシャンの状況は説明出来るっすよね。
ただそれは多分眉唾と言うか、言われてるだけで観測されてない現象というか、机上の空論的なヤツ。
現実として起こったかどうかは誰もわからない。そのへんはこれから調査するんでしょうけど、たぶん東堂さんが着眼しているのは今はそこじゃないっすよね。
「だが、今最も解明すべき点がある。それは、何故この轟きの遺跡で電気設備が動いているのか、ということだ」
「それがおかしいんすか? あ、いや確かに何千年も時間が経っているモノが動いているのもおかしいっすけど」
「そこも気になる点だが、舞君。発電機は何で動かすモノだかわかるかい?」
「発電機って、遺跡のあちこちにある物ですよね? あれを動かすとその周りの電気が付くようになるっすけど……」
発電機は何で動くのか? あれ、電気じゃないんでしたっけ。あ、それだと発電機が欲しいところに電気が欲しいってなるっすね。
発電機を持っていくところってことはコンセントが無いとか、そもそも電気が来てないようなところってことっすよね。
となると発電機は電気じゃなくて、それ以外のもの……、燃料とかになるっすよね。
「お前なぁ、車屋の娘がそこで悩むなよ」
「んなこと言ったって危ないからって工場に入れてくれないじゃん」
「あたりめぇだバカたれ。愛娘に怪我でもあったらどうすんだ」
「じゃあ知るわけないじゃん」
親子でぎゃあぎゃあ始まるとゴホンっと東堂さんの咳払いが響いて、親子喧嘩は早々に止まる。そんなことしてる場合じゃなかった。
よくよく思い出すと確か縁日とかで屋台の裏で動いてる発電機はガソリンとかそっち系の匂いがするっすよね。
だから発電機はやっぱり燃料で動いているわけで、となると妖精界でどうやって動かしている問題がある。
だって妖精界で石油取れる話なんて聞いたこと無いっすよ。てか、魔力と魔法があるのにそんなことしなくたって平気っすよね。
だってそっちの方が妖精界ではメジャーですし。
「そう、妖精界には石油やガソリンなんて言う人間界の燃料は存在しない。だというのに、轟きの遺跡の電気設備は発電機を動かし、発電することが出来る。これはつまりどういうことか」
「確かにおかしいっすよね」
「これが示すことは1つ。轟きの遺跡の住人。そこにいた優秀なエンジニアは1つ画期的な発明をしている可能性がある」
画期的な発明。やっぱりボクには難しい話がたくさんになりますね。こういうのは紫さんとか真白さんの得意分野っすよ。
と言っても流石にこれはボクにも何となく予想がついています。確か、まだ人間界では実現できていないってニュースでやっていた気がします。
「魔力で発電、っすか?」
「その通り。この轟きの遺跡にある発電機は魔力で発電している可能性がある。これはまさにノーベル賞モノの大発明だ!!」
両手をバッと広げて興奮したように大声を出す東堂さん。なんだかやたらと嬉しそうなのは東堂さん自身も研究者だからですかね。
謎とロマンが好きっすよねぇ。研究者と男の人って。




