王の決断
後ろで始まった戦いの無事を祈りながら、私はリオとメルを引き連れてその場を後にする。メルがいるというのと、私がここに留まる理由が無いからのよね。
あくまで努力をするのは昴。怪我をしてもどうやって動くのか、そういうことも実戦形式で学んでもらう。
自分の持っている力で道を切り開くための方法を体当たり形式で学ぶってワケ。
相手が全員ドラゴンだから、適当にやると死ぬけどね。あの気迫を最初に見せられたらドラゴン達も最初から結構本気で戦うだろうし。
「なうなう(無茶苦茶やるなぁ)。なーうなう(下手したら今日の内に死ぬぞ)」
「その時はその時。その程度だったってこと。でもまぁ、大丈夫でしょ。センスは間違いなくトップクラスよ」
リオが可愛そうだと言うけど、このくらいの無茶をしなきゃ届かない。私達以上に無茶苦茶やらせるけど、それを飛び越えて来そうな気配もあるのよね、アイツ。
勘だけどね。結構良いところまでいくんじゃないかしら。
良い素材よね。育成し甲斐があるというか、とにかく吸収力がウリだしね。引き出しが増えれば増えるほど勝手に強くなるし、頭がキレるのも良い。
想像以上にクレバーな戦い方をするのよね。その辺のギャップも良いわよね。ナチュラルに油断を誘える感じ。
「重要なのは何がなんでも目標を成し遂げたいって根性と気迫。あとはそれを持続させる体力と精神力。そしてそれを実行するためのパワー。全部を短期間でやるにはああするしかない、でしょ?」
「なうー(そりゃそうだけど、同情するぜ)」
あんまりに強引な手段にリオは引き気味だ。私も本当ならやらない方が良いとは思うわよ。リスクが大き過ぎる。
でも、時間が無い以上はこういう手段しかない。そこでなんとか成功をもぎ取ってこれなければどのみち昴達が最前線に立つことはない。
それだけの実力の差がある。それを埋めなきゃいけないんだ。無茶なのは本人が1番わかってる筈。
「それでも、手を伸ばしたいのよね」
縋りたいのか、失うことへの恐怖か、憧れか。
友達に対する執着の根底に何があるのかは知らないけど、何かがあるのは確定。
そこまで根掘り葉掘り聞くことはしない。人によって事情は様々だし、私だってそのクチだしね。
似たモノ同士、分かり合える部分もある。少なくとも私は同族嫌悪より、昴の願いが叶って欲しいと思う。
バカ正直に真っ直ぐで不器用で、ただ友達を信じていたいという純粋な願いが叶った方がいいじゃない。
やり方は乱暴極まりないけどね。
そしてそんな姿に背中を押されている私もいる。
真白が遠くに行ってしまうような感覚。
寂しさと悔しさが入り混じったような気持ち。親友が何処か遠くに、手を伸ばしても届かない場所に行ってしまうなら。
私も同じところまで飛べば良い。どうせ紫だって公国領主のリアンシと婚約してるし、墨亜だって帝国王子のスタン君と良い感じだ。
それなら、私だってそこに行ける。そこに行くだけの資格を私は既に与えてもらっている。
「トロイデさん」
やって来たのは竜の里の長老で実質里長を務めているトロイデさんのところ。
既に老竜であるトロイデさんはその巨体を丸め、老体を労わるように住まいとしている岩陰にいた。
「……おぉ、朱莉殿、リオ殿、メルドラ。よく帰って来た」
ゆっくりと長い首を持ち上げ、しわがれ声を響かせながら歓迎してくれた。
特にメルドラは孫のように可愛がってくれている。
抱えていた腕の中でモゾモゾと抜け出すとトロイデさんの方に駆け寄って行って早速遊んでもらっている。
「……トロイデさん」
「みなまで言わんよ。お主の煌めく焔を見ていればよく分かる。……よくぞ決断してくださった」
メルドラを構いながらではあるものの、ぐぐぐと首を下げ礼をするトロイデさん。
前に竜の里に来てすぐくらいの頃に頼まれてはいたのよね。
ただ、その時は断った。でも、今ならやって良いと思う。メルドラもいるし、竜の里の居心地っていうのは案外悪くない。
何より、私は真白と対等であり続けたい。親友として切磋琢磨し合うライバルとして。
ずっと同じ目線で立ち続けたい。その手段としてコレは都合が良い。
「かなり自分勝手な理由だけど、良い?」
「構いませんとも。何も為政者ではありません。最も強い竜というだけです。それだけで竜はまとまります」
確かにここは国じゃないものね。そんなに難しく考える必要も無い、か。
だったら、なってやろうじゃない。
「なるわよ、『竜の王』ってヤツに」
真白が女王なら私は竜王よ。




