王の決断
「し、死ぬかと思いました」
「膝ガックガクだし噛んでるし、まぁ振り落とされなかっただけ上出来よ。ゼネバの飛び方は荒いから」
「荒い方に乗せられたんですか私?!」
そりゃ乗り心地の良い方に乗るでしょうよ。ごちゃごちゃ言うんじゃないわよ。
「り、理不尽だ……。他の先輩達は優しかったのに……」
「ま、そもそも私は自分で飛べるんだけど」
「理不尽だ!!」
昴がわーわーと騒いでいるけど全部無視しておく。他の連中が後輩とか年下に甘過ぎるのよ。
生憎、私はそのへん甘くしないわよ。先輩後輩、師匠弟子の上下関係はしっかり叩き込ませてもらうわ。
特に今回は特急で昴の実力を叩き上げなきゃいけない。そのためには文句とか意見を言わせる暇なんて与える時間すら勿体ない。
ただがむしゃらに言われたことを遂行し続ける胆力と根性。あとは身体を壊さない運、かしらね。
下手したら死ぬし。
「文句言うなら帰らせるわよ。徒歩で」
「帰れないですよ!! 外崖じゃないですか!!」
「やらないの?」
「やります!!」
元気だけは一人前ね。そんだけ元気なら問題ないでしょう。
私が昴に与える訓練はたったひとつ。ドラゴン達にとっても良い刺激になるだろうし。
ましてや本当の意味で人間の小娘に簡単に負けようものなら私に拳骨されるのはよくわかってるわよね。
「昴。アンタは友達を連れ戻したいのよね?」
「はい!!」
「そのエゴを押し倒すのよね?」
「はいっ!!」
改めて、意思確認だ。何のために力を持ち、何のために力を振るうのか。
絶対にブレてはいけない芯が無きゃ、そもそもここで折れる。
それを再度、私も昴も確認する。
「キツイわよ。拒否されるかもしれないし、そもそも上手くいかないことだってある」
「わかってます」
「暴力で解決する、カスみたいな方法よ」
「それでも、やります」
アレコレと御託を並べても、私達のやろうとしていることは相手からしたら9割くらいの確率で迷惑だし、自分勝手で暴力的だ。
戦いっていう手段を使わない。普通の関係の中でやったら、1発で関係破綻なうえに場合によってはブタ箱行き。
最初から戦いと争いっていう最終手段が解放されてた最悪な状況の中で紡いだ絆だからこそギリギリ許されるかもしれない。
そんなクソみたいな手段を使う。一歩間違えば、というかこんな手段を使おうって時点で真っ当なヤツじゃない。
「友達を、これ以上失いたくないんです!!」
友情という名の執着心の狂気に身を任せたバカよ。
私も、昴もね。
私は真白の生き方とかやり方に憧れてる内に、真白と仲良くなってその脆さとか儚さに触れて、絶対に失いたくないと思ってる。
アイツが夢をひた進むその様をずっと見てたい。
言ってしまえば、私は真白という存在に魅了されて、対等であり続けていたいと思ったバカ。
昴も友達ってモノに強い執着心が見える。私とは違うだろうけど、その執着心はとんでもなく強い。
それを狂気と言わずしてなんと呼ぶのか。
「だったら力を鍛えるしか無いわ。最短の手段はそれしかない。鍛える方法は用意したわ、至ってシンプルにね」
そう言うと同時に里にいた若いドラゴン達が次々と現れる。
私が鍛えたドラゴン達だ。最初はヘナチョコだったけど、ここ最近はちょっとはマシになって来ている。
ま、全員がかりで相手にしてようやく私に少し攻撃が届くようになって来たくらいだけど。
昴からしたらありとあらゆる面で格上。勝てる相手じゃないわ。
「コイツらに勝ちなさい。アンタは1人。コイツらは全員で来るわ。コツは死にたくなければ、死に物狂いで戦うこと」
「……っ!?」
「それじゃあ、せいぜい頑張りなさい。流石にずっとは無理だから、夕方になったらその日の修行は終わりよ」
相当な無理難題。ハッキリ言って出来るわけがない。でもこれを超えないと、アンタのやりたい事は絶対に叶わない。
それくらい、強大な敵よ。
友達を取り返したければ、そのくらい超えて見せなさい。
「ーーーおおおおおぉぉっ!! 『思い出チェンジ』!!」
背を向けた瞬間、昴の雄叫びと変身音が聞こえて来る。最初は何のことか分かってなかったドラゴン達も目の前の人間の並々ならない気迫に次々に咆哮をあげていた。




