王の決断
「……」
竜の里に戻る私は珍しく自分の翼で飛ばずに、妖精界の若手のドラゴンで私の付き人みたいな感じになっている二体のドラゴンの内の一匹。ヴァンの背中の上に乗りながら、さっきブローディア城で真白の口から伝えられた決断について考えていた。
真白は妖精界の、ミルディース王国の女王になることでショルシエが引き起こした妖精達の暴走事件の終結を図るつもりだということをだ。
今の私達が切れるカードの中でも最善手のひとつなのは、わかっている。
正統な王位継承権を持つ真白が民衆が混乱している中で王位に就くことで一定の終息が見込めるし、民衆の一体感も生まれる。
問題はそれで根本的な問題は解決しない事と、真白のこれからの未来が半ば強制的に決まったようなものってところ。
「ママ、どうしたの?」
「ちょっと、ね。考え事」
考えても仕方がないのはわかってる。これは真白が決めたこと。
雰囲気に流されたり、勢いで大事な決定をするヤツじゃないのはよく知ってる。
考えて考えて、考え抜いて。それが1番良いと真白自身が判断した結果が、自分が女王になること。
ミルディース王国を復活させる事が最善で最適な解答だと自分で決断した。
それに文句を言う権利は私には無い。
「真白様のことですか?」
「まぁね。何も思わないわけじゃないわ。判断は尊重するし、私が反対したって意味が無いのはよく知ってる」
アイツ、頑固だしね。一度決めたらもう曲げない。良いところでもあるし、悪いところでもあるけど、それが真白らしさでもあるしね。
「親友が遠くに行ってしまうのがわかっちゃったんだし、私だって物思いのひとつくらいはするわよ」
「確かに、真白様とは1番のご親友というのは私から見てもよく分かりました。王と平民、ましてや人間界と妖精界に分かれれば、いくらご親友言えども今までのようには行きませんよね」
「そうよね……」
親友という肩書きは決して万能ではない。もし、この戦いを無事勝ち抜き、真白が本格的にミルディース王国という国家の運営中枢に落ち着いた時、今まで通りに気軽な関係ではなくなってしまう。
何より、人間界と妖精界という隔たりがある。人間界と妖精界が今後どうなって行くかは誰にもわからないけど、気軽に行ったり来たりなんて事は流石に難しいと思うのよね。
人間界に帰ってなった時、私達は真白を置いて帰ることになる。
それが物凄くモヤモヤする。やっと、やっと真白が手に入れた居場所をまた手放さなきゃいけないことがなんだか悔しくて堪らない。
「ママ、寂しい?」
「寂しい……。そうね、寂しいわ。別れが寂しくない人なんていないのよ」
「メルも、ママとバイバイ?」
「……メルとはバイバイしないわよ。大丈夫、安心して」
メルは私の気持ちに敏感に反応したみたいで、抱えている腕の中で不安そうに見上げて来た。
ただでさえ、ここ最近は忙しくて全然構ってあげることができなかった。
それなのに私が不安そうにしていたら、メルにもそれが移るに決まってる。
しっかりしなきゃ。真白のこともそうだし、紆余曲折の末にメルの親代わりをしてるんだからクヨクヨしてたらママに怒られちゃう。
「なうなーう(しっかりしなよ)」
「わかってるって。色々あり過ぎて、少し疲れてるのかも。里に着いたら少し休みを取るわよ」
「我々もですか?」
「アンタ達は昴を扱く仕事があるわよ」
先を見てサボろうとしたヴァンに釘を刺し、竜の里へ向かってぐんぐんと空を突き進んで行く。
妖精界を大きく3つに分ける世界の背骨と呼ばれるコウテン山脈。その中心のそびえ立つコウテン山の中腹、その奥地にある竜の里にだいぶ近づいて来た。
「そういえば……」
近付くにつれて、まだ竜の里に来たばっかりの事をうっすらと思い出す。
里長の長老竜、トロイデさんに提案されたこと。
「……一考の余地あり、ね」
親友と親友であり続けるために。これは私の拘りで我儘でただの心配性だ。
ひとりぼっちが大嫌いな真白に出来ることを私はし続けたい。




