地獄から帰って来た者
「これはこう、一般人に話していいものなんですか?」
「魂の力に手を出しておいて一般人もクソもあるかよ。お前がやってんのはルールの穴を突くやり方だぞ」
そう言われたら何も言うことは出来なくなる。だからと言って世界の秘密的な事をここで聞かされることになるとは思わなかったが。
「そこまで深く考えなくて良い。正直覚えていなくてもいい与太話レベルだ」
「無理ですが???」
ここまで話されて気にするなは無理が過ぎる。小心者では無いとは思っているが、そこまで肝っ玉がデカいつもりもない。
しかも世界だぞ? 身内の内緒話とはワケが違うんだが。それで平静を保ては無理がある。
「まぁまぁ。どうせ気にしても本当に役に立たないから」
「もうちょとオブラートに包んだ方が良い気がします」
モノは言いようと言うが、ちょっとあんまりな言い方な気がする。創世神というのだから神の中でも相当に位の高い人だと思うのだが、それを間接的に悪く言うのはどうなんだろうか。
「大丈夫ですよ。創世神の神、というか神の殆どは現世や他の神の領分に口出しも手出しも出来ません。創世神もそれは変わりません。……すこし運が悪くなったりするかもしれませんが」
最後にぼそっと言ったのは聞き逃してないぞ。やっぱり余計なことを言うもんじゃない。神様の少しで絶対に死ねる悪運を招きかねないだろそれは。
「ともかく、俺達の世界ってのは異例中の異例でな。魔法も科学もどっちも発展した結果があんまり良くないことになったらしい。結果として1つの世界を壁を作って2つに分けたんだ」
「つまり、人間界と妖精界は元々一つの世界だったと」
「そう言うことだね。他の世界がほそーいパイプで繋がった別の水槽なら、この世界の人間界と妖精界は同じ水槽に壁があって、違う地域の生き物が住んでる感じかな」
なるほど、イメージしやすい。悠さんの説明で何となく腑に落ちる。ここで科学側の人間界と魔法側の妖精界に無理矢理分けたのか。
それでもきっと完璧に分けられたわけではないんだろう。伝承とかも残っているから察するにここ数百年くらいまで妖精界に住むべきだった種族が細々と生き残っていたのかも知れない。
いや、もしかすると今もいるのかも知れないな。人目につかないように隠れ住んでいるだけでな。
これは妖精界側にも恐らく言えるんだろう。
「その証拠に人間界と妖精界の生き物はお互いの世界に言っても死ぬことは無いだろ?」
「普通なら死ぬんですか?」
「世界が変われば細かなルールも当然違う。例えば同じ酸素って名前でも同じとは限らないし、なんなら無い可能性すらある」
なるほど、それは死ぬな。同時に妖精界でそういうことは起きなかった。そう考えると妖精界には人間界と同じ酸素があるってことだ。
世界が変わればルールが変わる。そうならない人間界と妖精界は元々同じ世界だと言うのは確かにその通りだな。
「世界のアレコレについて雑に説明したが、ここまで説明してようやく本題だ」
「前置きが随分長いですね」
「お前は一から説明しないと納得しないだろ」
それは、確かにそうだ。一旦全部説明してもらった方が納得できるというか、安心できる。
ちゃんと自分達のやることに意味があるとわかるだけでモチベーションが違うし、無意味なことをしてるんじゃないかと疑いながらやる仕事のパフォーマンスなんてたかが知れてるからな。
自分が何をすべきで、何のためにするのかは明確であるべきだと思っている。
「『獣の王』の殺し方についてだ」
「――っ!!」
長い長い前置きの末に告げられた本題に息を呑む。それは、私達にとって喉から手が出るほどに必要な情報だった。




