地獄から帰って来た者
「復活!!」
融けかけていた身体が無事に固まってこれで何の問題も無く動ける。
いやぁ、死ぬかと思った。まさかいきなり灼熱地獄に連れていかれるとは思わなかったよね。おかげで対策ゼロの状態だったから普通に身体が融けたよね。
ダメだよ。雪女がいるのに外気温に配慮してくれなきゃ。こちとら対策してなかったら5月くらいの気温で普通に全身融けて死にますからね?
「大変失礼しました。こちらからすると種族差があるという事自体がレアケースだったので、閻魔大王様も失念していたのかと」
「そうなんだろうけど流石に生死にかかわるから勘弁してほしいね」
八千代さんが沢山の扇風機を当てて、自分で氷を発生させて周囲を気温を下げてようやくだ。
確かに魂になれば種族の差なんて微々たるものなんだろうし、地獄は基本的に鬼しか種族がいないしで種族差を考えることなんて無いんだろうし、神様に種族もクソも無いわけだけどさ。
死にかけるのはホントに勘弁してほしいよ。なんのためにここに来たんだかわかんなくなっちゃうって。
「いやはや失礼した。体調には問題はないか」
「なんとか大丈夫ですけど、気を付けて欲しいです」
「ご指摘はごもっとも。次回から気を付けよう」
身体が固まったところで閻魔大王様が戻って来る。申し訳ないことをしたと頭を下げられて、気を付けて欲しいとお願いをしてこの話はお終い。
変に長引かせても良いことないしね。相手神様だから敵に回す理由も無いし。
「千草の方は良いんですか?」
「私は神なのでね。分け身を作ることなど問題ないのですよ」
「分身ってことですか?」
「そちらで言う分身とはちと違いますな。偽者を作るのではなく、どちらも本体なのですよ。いや、むしろどちらも偽者なのかもしれませぬな」
閻魔大王様の話によると、どうも千草のところにも閻魔大王様はいるらしい。分身なのは間違いないっぽいんだけど、どうにも私達の考える分身とは根本的に違うらしい。
どっちも本物でどっちも偽者……? 私の頭ではちんぷんかんぷんだよね。こちとら頭脳労働は他人任せの民。対戦よろしくお願いします。
「とりあえずどちらにも私はいますゆえ、ご心配なさらず。とりあえずこちらにおかけください。貴女に与える試練について、お話しましょう」
「んえ? 私にも試練があるの?」
「そりゃあるでしょ。アンタ、なんのためにここまで来たのよ」
私にも試練を与えると言われて驚いたら八千代ちゃんに呆れられちゃったよね。いやまぁ言われてみればそうなんだけどさ。
主に千草がルーツの力を手に入れるために来ているわけで、私はてっきり同伴だとばかり思っていた。
そっか、私も試練を受けるのか。
「軽いわね~。アンタ、よくそれで戦いになんて参加できるわね」
「いやぁ、昔っからその辺の小難しいことは全然考えてなくって」
「嘘ですな」
たははは~、と笑う私に、閻魔大王様はぴしゃりと言い当てて来た。そう、言い当てて来た。
流石は神様。こっちのことはお見通しってわけだ。いやぁ、参ったなぁ。
どうしたものかなと頭をぽりぽりと掻く。あんまり千草とかには知られたくないって言うか、自分でもよく分かってないんだけど。
多分ルーツの力関連だよね。この状態ってさ。
「恐らく三途の川に直接流れ着いた影響でしょうな。貴女は元々、死後に触れたことでルーツの力の一端に触れた存在。死後の世界に近付きすぎれば、不安定になるのも道理」
「どうなってんの、コレ」
「簡単に言えば、雪女の力に飲み込まれつつあります。ルーツの力をコントロールをコントロール出来なくなっておりますな。そのせいで自我が希薄になりつつある」
そのままだと、身も心も妖怪になりますよ。と言われる。それは困るなぁ。会話にそれとなく参加しないようにして我慢してたのに、このままだと多分私の意識が雪女に乗っ取られるってことだよね。
「間殿も意地が悪い。恐らくはそうなると分かって貴女を連れ込んでいる」
「あの人そういうところあるよね」
「師匠似なのよ。あの人達も説明は後回しって散々やったから」
郁斗さんの陰謀らしいけど、同時にどうにかする手段もここにあるって事だよね。それが私の試練ってことかな。




