地獄から帰って来た者
「厄介な弟子を連れて来ましたね、間殿。私が強く出れないタイプを良くお分かりだ」
「好きだろ? こういう真っ直ぐなヤツ」
「全く、困ったものですよ」
悪戯っぽい顔をする郁斗さんと困り顔をしながら何やら嬉し気な表情をする閻魔大王。この2人の仲は私が想像するよりもずっと良好で親し気な様子だ。
閻魔大王と言えば、格で言えば神に相当するモノだろう。実在するとは露ほどにも思っていなかったがその神と対等に話せる辺り、郁斗さんと悠さんが自分達が住む世界でどれだけの功績を上げた人物なのかが予想出来そうだ。
神と親し気に、神と肩を並べざるを得ないとなるとやはり世界存亡の危機レベルだろうか。でなければ神と関わったり、神が出しゃばって来ることもないだろう。
私が思うに、神は基本的に現実世界に関与しないだろうからな。じゃなければ神はもっと身近と言うか信仰の先がもっと具体的なモノになっている気もするし。
「間殿と高嶺殿が天香様と天照様のお弟子、そしてそのお二人がその孫弟子でなければ、門前払いどころか直接地獄に落としているところだという事は釘を刺させていただきますよ」
「わかってるさ。俺達も適当な人材を連れて来たわけじゃないのは見て分かるだろ?」
閻魔大王としてはルールを本当は守って欲しいと再三の忠告だ。あくまで例外中の例外。その、天香と天照という、恐らくは高位の神々だろう存在がいなければ、最初から成立しない話だという。
どのような神かは分からないが。悠さんと郁斗さんの師匠ともなると私達では数秒の太刀打ちも出来なさそうな気がする。
そもそも神と対等に戦おうというのが論外なことなのだとは思うが。
そんなことを思いながら、私と要に視線を向ける閻魔大王。気を抜き過ぎないよう。だが敢えて自然体で私達は相対する。
閻魔大王が視たいのは取り繕った私達ではなく、ありのままの私達だろう。
神相手に虚勢を張るのも無意味そうだしな。しかも地獄の裁判長、閻魔大王。こちらの胸の内など透けて見えて当たり前じゃなかろうか。
「よく似ておりますね」
「似てる……?」
「間殿と高嶺殿にです。細かい差は勿論ありますが、あなた方お二人とここに来た境遇もそれぞれの状態もとてもよく似ている」
私と要の状態や境遇は郁斗さんと悠さんに似ているらしい。どういうことかと要と一緒に首を傾げると閻魔大王は笑うような仕草を見せながら言葉を続ける。
「悠さんは自力で魂が持つ原初の力を引き出せるようになった方です。その結果、悠さんは戦えば戦うほど人間からエルフへと変貌していきました。そういう点は要さん、貴女と似ていますね」
そういわれると、確かに差異はあれどある程度自力でルーツの力に近付いたのは似ている部分だ。
要は真白の『繋がりの力』に強い影響を受けた結果。悠さんはどういった経緯かは本人に聞くしかないが、私は恐らく高嶺流の武術が関連していると思った。
アレは古い体系の魔法らしい。私はまだまだその浅い部分しか理解出来ていないだろうが、本家本元の高嶺流を扱う悠さんのその高嶺流の理解度というか、魔法の深度とでも言えば良いのか。
自分の一族が生み出した古い魔法を深く理解すればするほど、魂の源流のようなものに近付いていった結果、魂が持っている古い部分、ルーツの力を引き出せるようになっていたのではないか。
となると、郁斗さんと私はその真逆といったところか。
「その通り。郁斗さんも貴女も、自分のルーツを引き出すには程遠い位置にある。というか高嶺殿とお嬢さんが特例中の特例なんだがね。普通、転生前の力を引き出せるようになるなんてあり得てはいけないものだ」
「地獄の意味がなくなってしまいますからね」
「その通り。罪を償い、昇華されまっさらになって転生したはずの魂から過去の情報を引き出して力として利用されれば転生先の世界によっては異常事態。困ったことというヤツです」
正直に申せば、小さい規模でなら時たまあることではあるんですがね。あなた方の規模となると問題なんですよ?と付け足される。
アレか、たまにいる超能力者的な人がソレなのか。ああいうのはマジックとか手品の類だと思っていたが、まさかこんなところにカラクリがあるとはな。




