地獄から帰って来た者
「こちらが地獄の裁判長、閻魔大王様のおられるお屋敷となります」
「お偉いさんだけあって大きなお家だねぇ」
確かにデカい。諸星邸の洋風の屋敷ではなく基本は和風。ところどころに日本以外のアジアンなテイストがある。
閻魔大王というのは日本での呼び名で、アジア各地で名前などを細々変えながら同一の存在とされるからだろうか。
「久々に来たが、こんなにデカい理由あるか? どうせ1人で持て余してるのに」
「ここ大きくするなら別の施設大きくしてあげればいいのに」
「地獄の最高責任者の家にいちゃもん付けるのはあなた達くらいです」
郁斗さんと悠さんは辛辣に無駄に豪華すぎると評価している。一応、こういうお屋敷が大き過ぎる理由はあるんだけどな。
主に大勢の来客に対応し切るためだ。社会的立場が上の人と言うのは大勢の人を読んだり、仕事の話が立て込み過ぎて急遽人を泊めたりすることもあるんだ。
特に交通手段が制限されている今の人間界や、そもそも発展していない妖精界でもこの傾向は強い。
もし、人間界が魔獣被害に悩まされていなかったら高級な住居はコンパクト化していたなんてことをニュースで聞いたこともあるな。
あとはシンプルに権威を示すためというのもある。偉い人は舐められると仕事に支障が出るんだよな。
社会的に立場が上だけど安い家に住んでるとセキュリティーも不安だし、何より勝手にアレコレ言うヤツがいるんだよな。
まぁ、贅沢だって文句言うヤツもいる。つまり結局文句は言われるから面倒なんだよな。
「千草さん達はお屋敷を見ても特に何にもないんですね」
「私達は実家が太いからな」
「人間界だとお嬢様なんだよね。これでも」
自分でこれでもって言うなよ。まぁ、要がお嬢様らしくないのは事実だがな。いや私もそうだが。
揃いも揃って庶民派なんだよな。生粋のお嬢様は真白と墨亜だな。
「千草が、庶民派……?」
「おい、なんでそこで疑問形なんだ」
「いやぁ、ねぇ?」
なんだよその含みのある言い方。流石に傷付くぞ。
むすっとしてると他の三人もこっちを見てなんだか微笑ましいという雰囲気を醸し出している。
くっ、なんだか子供扱いされている気がする。一応成人なんだぞ?
「20歳なんてガキだよガキ」
「まだ大学生だもんね」
「意外と千草さんがそういうポジションなんですね。ギャップがあって良いですね」
くそ、年齢不詳組がニヤニヤしてる。八千代さんにまでクスクスと笑われている。なんだこの気恥しさは。なんで地獄にまで来てこんなめにあっているんだ。
案内されている廊下を進む足もずんずんと速くなっていくの当然だ。どうにかしてさっさとこの妙な雰囲気を払拭したい。
「千草さん、閻魔大王様のお部屋はこっちですよ」
「……っ!!」
挙句の果てにこれだ。いつの間にか分かりやすく大きな扉を通り過ぎていたらしい。ホントに調子が狂う。
「昔からそういうところは変わらないねぇ」
「クールぶってて結構天然なんだ? 郁斗も似たようなところあるよ」
「そんなところ似てると言われても嬉しくないです」
ぷぷぷと笑う要にニコニコしながら郁斗さんとの共通点を指摘されても困る。ああもう、なんでこんなタイミングで恥ずかしい思いをしなきゃいけないんだ。
「さぁさぁ、今日の本命の相手にさっさと会おうぜ」
「えぇ、早くしましょう」
さっさと逃げたいので郁斗さんの発言に乗っかっておく。ここに来たのは遊びじゃないんだからな。
閻魔大王様とルーツの力。どういう繋がりがあるのかは相変わらずさっぱり分からんが、必要だからここに連れて来てもらってる。その辺は郁斗さんを信用している。
閻魔大王とやらが頭が上がらないという悠さんの存在も背中を押されるというものだ。
「閻魔大王様、郁斗様とお連れ様をお迎えいたしました」
「うむ。入れ」
扉の向こうから聞こえて来た低く厳格そうな声を聞いて、私達は部屋の中へと通された。




