地獄から帰って来た者
「ここは死した者を救済するための場所!! 生者が欲に溺れて力を手にする場所ではありません!! お引き取り下さい!!」
主張はごもっともだ。地獄とは死んで肉体を失った魂が罪を洗い流し、次の生を受けるための場所。
私達、生きている者が力を求めて来る場所ではないという彼女の主張は至極ごもっともで、言い返しようがない。
ただ、私と要は連れてこられた側であり、状況をサッパリ理解していない。問い詰められても何も答えることも出来ない。
「まぁ、待てよ八千代。こっちの話も聞いてくれ」
「嫌です!! どうせまた無理難題ですから!!」
「こちらとしても急ぎなんだよ。……『審判』関連だ。今はそれだけ言っとく」
「――っ!!」
言い合っていた八千代さんが何かを郁斗さんに耳打ちされて目を見開いて黙り込む。
何を言ったんだ……? 騒がしい八千代さんが一瞬で黙るような脅し文句でも言ったのだろうか? いやそれで止まるような人ではなさそうだしな。
だとするなら何か交換条件か? それなら多少は話を聞いてくれるだろうか。
どんなに厳格な人でも魅力的な交換条件を掲示されれば脇が緩むというものだ。
「出まかせではないですよね」
「出所は間違いない。かなり回りくどい方法だが、厄介なやり方をして来ている」
「……分かりました。詳細は後で伺います」
こそこそと2人で何かを話している。一体何を話しているのやら。何か取引なのだろうが、わざわざコソコソ話しているのをこちらから掘り返すような真似も出来ず、疎外感が凄い。
「ごめんね。こっちも色々あってね」
「構いませんけど、どうしたんです?」
「んー、仕事の話かな。郁斗と私、それと他にも仲間が何人かいるんだけどそれで請け負っている仕事が中々規模が大きいというか、代替えが効かなくてねぇ」
「それが私達の世界線についても関連していると?」
一応ね~。と悠さんにはそれっきりで誤魔化されてしまった。これで私達に話せない内容ということが確定か。
複雑な事情というのはここにもあるらしい。どうやら悠さんと郁斗さんもかなり厄介ごとに巻き込まれていたクチのようだ。
じゃなきゃルーツの力なんてものには手を出さないか。私達も厄介ごとに巻き込まれていると言えばそうだしな。
「一言いうならそうだなぁ」
「……?」
「千草ちゃん達なら出来るよ。だって私達にも出来たからね」
「……ありがとうございます」
色々と含蓄を感じさせてくれる言葉だと感じた。私の想像を遥かに超える物語が悠さんと郁斗さんにもあったのだろう。
そしてこの人達はその物語に一旦の結末をつけた。だから私達の物語にもちょっかいを出す余裕がある。
私達の物語は、私達で結末を付けなければならない。この人達はそれを理解して、私達に手を貸してくれているんだ。
きっと、悠さんと郁斗さんが直接手を出して来るのは本当にヤバい時だけなのだろう。そうならないように私達は強くならなければならない。
2人が私達の世界線に直接関わることこそ、世界のルールとやらに抵触しそうだしな。私と要に色々するのが限界なんだろうなとも感じている。
「よし、話しがついたぞ。さっさと行こうぜ」
「お待たせしました。今回は特別にですがご案内いたします。改めまして八千代と申します」
「千草です。こちらで暇そうにしてるのは要です」
要はまた暇な時間が出来ると氷の魔法で遊んでいた。本当にこの手の小難しい話には関わろうとしないのは良い性格してるよ。
「……魔力操作の一流さは認めますけど、もうちょっと関心を持ってくれると嬉しいです」
「あ、なんかごめんなさい。なんか難しそうな話をしてるなぁって思っちゃって……」
フィーリングで生きているタイプの要と理路整然とした性格をしてそうな八千代さんは相性が悪そうだな……。




