妖精の王
「団長のこの言葉に多くの人が心を打たれました。勿論、不満もあるでしょうがそれを飲み込まざるを得ないと思わせるくらいの覚悟と気迫を見せられた私達は素直に団長の言うことを聞くことにしたのです」
「……じゃあ、妖精に対して何も思っていないの?」
「思えませんよ。確かに沢山の死傷者を出しました。ですが、それは彼らの意思ではない上に彼らは努めて理性的に身を引いたのです。何よりも、私達のために」
それを背中から魔法を撃つようなことがあれば、獣はどちらか分かりません。
彼はそう言ってにっこりと優しい笑みを浮かべる。嘘や偽りがあるようには思えない。
言って得するようなこともない。彼の治療を終え、話を聞けたことにお礼を言い、次の患者へと移る。
こちらも酷い怪我ではあったけど、会話をすると口にするのは妖精への恨み節ではなく、パッシオへの敬意と『災厄の魔女』への怒りと恐怖だった。
勿論、ゼロでは無い。私が近寄ったことを怒り、妖精なんて信用出来ないと口にする人もいた。
ただそれはごく少数だ。他の人もその怒りや悲しみを理解しているからか、何かを言うこともない。
みんながみんな、妖精に対する不信感と恐怖、怒りは少なからずある。
でもそれを妖精にぶつけても仕方がないことも理解していた。
パッシオがそういう感情を黙らせた。真正面から、訴えかけることで。
そのおかげで妖精への敵対心や怒りを一旦、民衆は飲み込んでくれていた。
パッシオにその意図があったかどうかはわからない。ただただ、妖精という種族が、自分が私達の邪魔にならないようにとだけ考えた無鉄砲な行動な気もする。
結果はオマケ。たまたま良い方向に転がっただけ。少なくとも旧王都サンティエでは種族間の軋轢は最低限で済んだと言えるだろう。
ただし、それは一時的なものだ。時間が経ったのにも関わらず状況が進展しなかった場合、妖精からもその他の種族からも不満が噴き上がってくる。
ここからは短時間でありとあらゆることを決定し、行動を起こし、結果を出さなければならない。
失敗は許されない。
患者の治療を終えて、私は一度大広間を離れる。向かう場所は旧王都サンティエとミルディース王国の領内を一望出来るブローディア城で1番高い場所だ。
見晴らしの良いこの場所には何回か来ている。ここから見下ろすサンティエの街並みは美しくて、人々の活気を見るのが好きだった。
サンティエを越えれば国境でもあり、妖精界最高峰のコウテン山脈が聳える。
森と草原に風が抜けてゆらゆらと葉を揺らし、川の水面がきらめく。
とても綺麗だった光景は眼下のサンティエの街並みを中心に荒れ果ててしまっていた。
止められたハズ、と思うのは驕りだろう。現実として出来なかった以上、私達は失敗した。
守ると約束したものを守れなかった。よそ者の私を姫様と慕い、良くしてくれた人達を私は守れなかった。
大好きな人を守れなかった。
「美弥子さん」
「はい」
2度と、そんなことは起こさない。もう半端な覚悟で臨まない。
守りたいものを絶対に守るために、母が愛したこの国と民を今度は私が守る。
「ずっと着いて来てくれる?」
「何をおっしゃいますか。私だけではありませんよ。真白様が誰かのための決断をする時、真白様のために私達も決断をするのですから」
「……ありがとう」
私は本当に恵まれている。私の周りにいる人は、私のために躊躇いなく行動してくれる。
パッシオもそう。朱莉や千草や他の魔法少女もそう。協会の人達や両親もそう。
おかげで、私は私のやりたい事に集中出来る。
「私、この国の王になる」
私がミルディース王国の王族としての責務を果たす。
この国を、民を、世界をこれ以上好きにはさせない。
パッシオを妖精を助ける。私は『妖精の王』の1人なんだから。




