獣の正体
「『王』って言うのは普通に想像する王様でいいの?」
王、と言われればみんなが想像するのは国王だろう。立派なヒゲを蓄え、輝く王冠を頭に被り、玉座に座っている。
ザックリしたイメージはそんなところだ。つまるところ為政者だ。
国を治め、政治の決定権を持つその国で1番偉い人。
まず真っ先に王と言われればこうなのは私達の間でも共通の認識だと思う。
この中にも王家の血筋が3人もいるわけで。
【部分的に合っていますし、部分的には違います】
「またややこしそうな話だな」
【敢えて言うなら『妖精達の王』ですね。太古の時代、妖精界には王という存在は無く、種族ごとの長がそれぞれの種族を束ねていたんです】
まだ国というカタチもなかった時代だ。人間界の成り立ちにも似ていて、人類も初期の方はそうだっただろう。
妖精界ではそこに種族が絡むため、国という集団の発展が遅れたと予想出来る。
その中に現れた妖精の王。元々獣と呼ばれていた種族が新たな名称をもって種として迎え入れられたとするのが紫ちゃん達の仮設ではあるけど、だとするならそれは誰で何をもってして王と呼ばれたのか。
王とは地位や名声。あるいは圧倒的な力や能力を持って頂点に立っている者への称号だ。ぽっと出の誰かがなれるわけじゃない。
何より、妖精は王を失った直後のハズだ。獣と呼ばれていた頃の王。おそらくショルシエが妖精界に降り立ったという二柱の神に敗れ、敗走したことにより獣は王を失い、恐らくは統率を失ったはず。
それをまとめられるような逸材が当時の獣たちの中にいたのかは疑問だ。だってショルシエの配下、あるいは支配下に置かれて操られてしまった人や生き物はどれもこれも本能と悪意に満ち満ち、欲望のままに破壊行動を行う者たちばかりだった。
その中に『妖精の王』になる存在がいたとするのなら、それはもはやバグのような存在で――。
「ん?じゃあ私達ってなんだ?」
【『妖精の王』は現実にいる以上、御託をいくら並べてもそれが現実ってことか】
そう、妖精の王はいるのだ。ズワルド帝国、スフィア公国、ミルディース王国。それぞれが妖精の王として代々国を統治し、発展していった国だ。
その3つの大国は元々は一つの国であり、確か『白の女王』と呼ばれる人物が自分達の子供にそれぞれ領土を分け与えて生まれた国のハズ。
少なくとも神話ではそうなっている。
二柱の神とそれに見初められた『白の女王』。そしてその子供たち。それが『妖精達の王』そのものではないか。
【そうです。そしてその王族だけが持っている魔法でも科学でもない特殊能力が『繋がりの力』です】
確かに、そう仮定するなら『獣の王』の代わりに『妖精の王』になった私達のご先祖様達。その特殊能力こそが状況を打開するカギになると考えるのは妥当なところだ。
実際にパッシオの暴走を止めたその事実もやはりそれを裏付ける。ただし、何度も言うようにその効力が狭いのではダメだ。
【今回の真白さんの方法がパッシオさんなどのごく一部の妖精にしか効果がない可能性があることについてこそ調べる必要があると思います。とにかく、王とその力。それがとても重要なんです。ショルシエが帝国の内部に侵入したことも、王国を滅ぼしたことも、この『繋がりの力』がショルシエにとって天敵のような力だからこそだとしたらそちらも説明がつきます】
「確かにな。ただ破壊を楽しんでいたのではなく、自分の天敵を真っ先に潰してあとは悠々自適、ヤツが好みそうな手段だ」
「そうなると国を3つに分けたことにも意味がありそうじゃない?リスクの分散ってことでしょコレ?」
最初の妖精の王、『白の女王』がひとつの巨大な国ではなく、3つの大国に分けた理由も何かありそうだ。
紫ちゃんとスタン君の調査がとても重要になってくるのは間違いない。舞ちゃんのいる轟きの遺跡などの遺跡の発掘なども重要度が増して来る。
【そのあたりのことはこちらでやっておきます。真白さんはパッシオさん達をどうにかして引きずり戻してくださいね】
言い方、物騒すぎない……?




