千夜祭
ボンッと足裏を爆ぜさせて飛び出す。加速させたスピードはそのままに燃える花弁を纏わせた上段蹴りを一撃。
「ぐぅ……、あ"ぁっ?!」
「叫んでる暇は無いわよ!!」
パッシオに炭化させられた腕とは別の腕を使ってベンデはガードするけど、脚先から伸びた荊のツルがガードしていない方向から襲い掛かる。
当然、灼熱の燃える荊だ。ツルが背中に絡み、棘が食い込みながら皮膚を貫き、傷つけ焼いていく。
「ぐぅうぅ!!」
「一撃だけで許してもらえるとでも?」
燃える荊のツルを引きちぎって逃亡を図ろうとするベンデ。死に物狂いでプライドも何も無く、逃げようとするところを容赦なく周囲を囲む荊と花弁で絡めとっていく。
悲鳴や怒声が聞こえて来るが、知ったことではない。精々苦しみなさい。
「お前ぇ!!ごのわだしをこんな目に合わせて、ただで済むと……!!」
「こんな目に?この程度の苦しみで根をあげるなんて随分と堪え性の無い獣ね」
もがけばもがくほどツルは絡まり、棘は突き刺さって行く。そこから焼かれているのだから再生能力のようなものがあっても意味がない。
むしろ長く苦しむだけ。もはや拷問の領域だろう。私の趣味では無いけど、こんなものじゃな足りないと心が身体を突き動かす。
絶対に許さない。お前だけは、絶対に。
「がっ――」
「ただで死ねると思わないでよ」
動けないところを思い切り蹴り上げ、浮き上がった身体の首を掴んで持ち上げる。私の身長が足りないからベンデの身体が地面から浮くことは無いけれど、既に全身に力の入ってないベンデは抵抗する余力もなくだらりと私に首を掴まれている。
掴んだ首からじわりじわりと炎の花弁で焼いて行く。どうせショルシエの分身体。喉を焼いたところで簡単に死にやしない。
「があああぁっ!?」
「煩い。騒ぐな」
喉から焼かれていくのはさぞや苦しいだろう。絶叫を上げて暴れるベンデはさらに荊に絡まり生傷が増え、生傷が焼かれていく。
今は煩いけど、やがて喉が焼かれて声の一つも出せなくなるだろう。それまでじわりじわりと炎の花弁で体中を少しずつ焼いて行く。
炎の花弁は肌に張り付いたら焼けて無くなることも無くただひたすら高温で焼き続ける。
これでも足りない。パッシオにした事に比べれば、私の鬱憤はこんなものじゃ足りない。
殺すだけじゃダメだ。泣いて謝ってもダメ。意思を持って生まれたこと後悔させてやる。
私の中でマグマのような怒りがどす黒い憎しみに変わって行くのを感じながら、私は止まらない。止められない。
コイツを、ベンデを許せない。パッシオに何をしたのか知らないけど、彼の意識や自我を奪って私のことを襲わせたのだけは確定事項だ。
彼の意思を無視してそういうことをするというのはパッシオという個人の決定的な侮蔑に他ならない。
何より個人的に気に食わないのが、パッシオのことを『エヴァル』と呼んだことだ。まるで自分達の仲間かのように、自分達こそがパッシオを理解しているかのような振る舞いが癪に障る。
お前のモノじゃない。私のだ。そんな独占欲が身を焦がす。
誰にも渡さない。ましてやお前らなんかに渡すものか。嫉妬か、怨嗟か。それは枯草に着いた炎のようにとめどなく燃え広がり続け――。
「真白、そこまでだよ」
「あ……」
首を掴む指が熱と握力で焼き潰す勢いだったところをいつもの優しい声がそっと諭してくれた。
たったそれだけで、私の中に灯っていたどす黒い炎は消え去り、ベンデの首から手は離れ、周囲の荊も火の粉になって消えていく。
「ガハッ……。ぜえぇっ、ごほっ」
「今は君に構っている暇はない。すぐに消えるなら今回だけは見逃してやる」
「――っ!!」
咽るベンデを一瞥もせず。忠告だけを示すと、ベンデは決死の形相をしながら大慌てで私達の前から姿を消す。
ただ今はそんなことはどうでも良い。
「ごめん、真白。怖かったよね」
「パッシオ……」
元に戻ったパッシオの尾の中で安心した私は、ボロボロと泣くことしか出来なかった。




