千夜祭
魔力の質が変わった、と言えばいいのか。まだ魔力というものに触れてから時間も少ないし知識も経験も無いから具体的なイメージを言葉にするのが難しい。
敢えて言うなら、言葉を選ばずに言うのなら。
「ひっ?!」
サフィーリアさんが怯むくらいには【怪物】みたいなどろりとした魔力だった。
「まずはお前のその汚い魔力から削いでやろう。ーー『固有魔法』」
天狗の面の向こうから聞こえるくぐもった声がより恐怖を引き立てる。
目の部分から見える翠色の目もお面の隙間を介してるせいで影が出来てより『らしさ』を強調していた。
「『翡翠・風車』」
回転する十字の斬撃がドリルのように放たれて、『人魚』のビーストメモリーで巨大化したサフィーリアさんの身体を抉り取る。
私達の攻撃じゃまともに傷も付けられなかったのに、まるで画用紙に穴を開けるみたいにあっさりと貫いている様子は私にはもはや理解不能の領域だ。
「なん、ですか、アレ……」
まるで人間ではない。どちらかと言えば妖精や魔物に近いものを感じる魔力。
怪物になってしまったのかと思わせられてしまうかのような変化に私は震えながらグレースアさんに質問する。
「なに、かぁ。短く説明するのはちょっと難しいね」
それにサフィーリアさんは表現に困っている様子だ。アレが何なのかは分かっているけど、分からない人に説明するのがきっと難しいのだろう。
理屈があるなら、大丈夫なのかな。いや、でもアレが真っ当な力だとはとても思えない。
人間が、魔法少女が放っていい魔力じゃないと思う。
「輪廻転生って知ってる? 死んだら次は別の身体を得て現世に戻ってくるって感じの」
「それは、知ってますけど」
「それって本当に起きてることなんだよね。私達が知らない神様の領域での話なんだけど、私達。正確には私達の魂って何度も何度も死んで生まれてを繰り返してるの」
なんの話を、とも思ったけどふざけて言ってるようには思えない。
なにより、魔法や魔力に触れてから現実は自分の想像なんて当たり前に飛び越えてくることを何度も見せつけられて来た。
普通の人が鼻で笑う話でも、それが真実かも知れないと思えるくらいには成長したつもりだ。
だから一旦、何も言わずにこの話を聞くことにする。
「あの力はね。私達の魂が一番最初に生まれた時の力を引き出してるの。例えば、フェイツェイは『天狗』。私は『雪女』」
「だから、天狗の面を被ってるんですか?」
「そ、今のフェイツェイは魔法少女だけど、種族で言えば天狗だよ。私も同じ。私の種族は人間じゃなくて雪女。ほら、触ってみる?」
差し出されたグレースアさんの手を握ると驚くほど冷たい。
氷属性の魔法少女だからって体温まで低いなんて無いと思う。まるで冷凍庫から取り出したばかりのアイスのカップみたいな冷たさはどう考えても人間の体温じゃあなかった。
「驚いた?」
「そりゃ、そうですけど……。え、じゃあお二人は……」
「うん、人間辞めて来た」
そんな笑顔で言うことじゃないだろうと愕然とする。人間辞めたって笑顔で言うことじゃ絶対にない。
簡単に言うけど、その覚悟というか行動力が1番バケモノじみている。
この人達は人間を辞めるための修行をして、それを終わらせてここに来たんだ。
頭のネジがどっか行ってるんじゃないかと思う。なんでそんな発想をそんな簡単に言って実行出来るのか。
それが出来るのが、このレベルにある人達ってことなのかも知れない。
「私達は『ルーツ』の力って呼んでる。それを魂から無理矢理引き出してコントロールするための修行をしてたら時間がかかっちゃった」
「どうして、そこまで……」
「えー、そんなの簡単だよ」
笑って答えるグレースアさんの視線の先には天狗の面を被ったフェイツェイさんがサフィーリアさんの巨大化を完全に無力化したところで。
「ヒーローが誰かを守るのに、自分のことなんて考えてられないからね」
聞く人が聞いたら頭を抱えそうな答えに私は呆然とするしかなかった。




