千夜祭
ピキリと目の前の2人から青筋が浮かぶ音が聞こえて来たような気がする。見るからに身にまとう空気感が変わった。絶対的優位性から来る余裕のある態度から怒りで苛立っているのがわかる。
2人とも、性格自体は単純だ。どっちも腹芸は得意じゃないからね。
「それだけボロボロにされてよく口が回るものです。感心しますよ。そこまでバカなら逆に凄いです」
「全くだわ。勝ち目なんて万に一つも無いのに、よくもまあそこまで強気でいられるわね。……死にたいの?」
2人は案の定、垂らした釣り針に思いっきりかかってくれた。冷静そうに見えて、案外感情的な部分がある2人だ。
煽れば乗って来る。これで、もう少しだけ私に視線を集められる。持っている通信機の電源をONに出来た。耳にはかけない。こっちの音を一方的に魔法少女側の誰かに聞いてもらうだけ。誰かひとりくらいは聞いている人がいる。
私に出来ることと言えばこれくらい。
2人が別のところに行くことを出来る限り遅らせつつ、情報を集める。
やることは変わらない。2人を出来る限り、いや止めるつもりで行け。
「死ぬかもですね」
「……何が貴女をそこまでさせるのよ。貴女にとってここは守るべき場所でもなければ、命を張るような人がいるわけでもない」
「簡単ですよ」
何より、やらなきゃいけないのは。
「間違ったことをしている友達を止めることは友人として当然のことだよ」
ビビるな、迷うな、日和るな。そうやってビビって迷って日和って来たから間違って来た。
自分を隠して、取り繕って暴かれて幻滅されて僻まれてを繰り返して来た。
でも、今はもう違う。取り繕う必要もないし、迷ってる暇なんてないし、日和って見せたら怒られる。
私なんかより全然凄い人達が私のことを認めてくれている。
わがままを貫き通せ。教えてもらった考え方をここでやり通さなかったらただのそれこそバカだ。
「……あははは!! 面白いことを言いますね!! 裏切られてなお、友達?! とんだお花畑ですよ!! あははははは!!」
手で顔を覆って笑い転げるサフィーリアさん。
そうだね、バカだと思うよ。普通ならきっと割り切る。
真白さん達は敵だと分かった瞬間に切り替えられるんだろうなと思いながら、でもコレが私のそうしたいと思ったことだから。
「……」
逆に黙り込むファルベガ。さっき見せた怒りもほどほどに何かを思い込むような態度を見せる彼女はボロボロの身体で立ちあがろうとする私をじっと見つめていた。
「バカね。そんなことをしたってもう取り戻せないのよ」
「やって見なきゃ、わからないよ」
「そんなことに命をかけるなんて馬鹿げてる。貴女だって分かってるでしょうに」
「馬鹿でもやるんだよ。やらなきゃ、私じゃない」
暖簾になんとやら、あるいは馬の耳に念仏?ちょっと違うか。
まぁ、何だっていいや。やるって決めたからやり通す。
真白さんが教えてくれたことだ。正義や正しさは結局のところエゴの押し通しだって。
そのエゴを押し通して納得してもらうためには力がいる。
それが暴力だったり、お金だったり、権力だったり。
やり方は色々あるけど、正しいと思うことを行うにはとにかく力が要る。
私は友達の間違いを私が正しいと思う方向に正す。
まさしくエゴだ。サフィーリアさんにとってもファルベガにとってもいい迷惑。
でもやるよ。私はもう友達を失いたくないから。だから。
「力を貸して、リュミー」
【『進化』!!】
親友の力を借りて、新しい友達を連れ戻す。それが私がやりたいことだから。




