千夜祭
私の声を聞いて、こちらを向いたピリアが驚いたように目を丸くしたあと、大きなため息を吐いてからこちらに向く。
私の方は疑問と混乱と、その中でも冷静な自分が導き出した結論とが混ぜこぜになっているせいで頭が回っていない。
いや、回ってはいる。回り過ぎて、事実を飲み込む前に結論を出しているのかも。
だって、どうしてピリアがここにいるのかを私は何となくでも分かってしまっているのだから。
「……もしかしたら、とは思っていたわ」
ぽつりと漏らすピリアの顔はいつも通りクールな澄まし顔だった。本当にいつも通り、気怠そうだけど面倒見の良い、いつものピリア。
でも、状況がいつもとは違い過ぎる。行く先々でたまに会ってはいたけど、こんな物騒なタイミングで出会ったことなんて一度もない。
無いと、思ってる。
「へぇ、お知り合いなんですか?」
「少しね。まさか、こんな形で出会うなんて思っても見なかったけど」
「意外ですねぇ。てっきりお友達は作らない主義かと思っていたんですけど」
ニマリとした笑みと一緒にサフィーリアさんに質問されてピリアはぶっきらぼうに答える。いつもの私との受け答えよりずっと淡白な抑揚で、殆ど事務的に返事をしているような、そんな感じ。
最終的にはサフィーリアさんの言葉に返事をすることもなく黙って私を見ていた。
「どう、して……。ピリアが……」
「貴女、バカじゃないんだからわかるでしょ。そういうことよ」
何とか声を絞り出して問いかけると明言を避けられる。そんな適当な言葉で誤魔化して欲しくはない。
わかってる。ここにこうしている時点で彼女がどういう立場の人で、私達をどういう関係なのかは答え合わせなんか必要が殆どない。
それでも、彼女の口から聞きたかった。そうじゃないってことを言って欲しいというほんの少しの希望。
そんなものは無いって分かっているのにね。
「はぁ……」
またため息を吐いてピリアはめんどくさそうにしながら、ポケットに入れていた手を突きだす。
何かを握っているらしい。私の場所からだと詳しくは見れないけど、それほど大きなモノじゃない。
手のひらサイズの小さな何か。私達の中で例えるならメモリーと同じくらいのサイズのそれをピリアは握りつぶした。
【『姫』】
「『変身』」
砕かれたモノから溢れ出て来た魔力にピリアが包み込まれる。まるでスライムみたいな魔力。その魔法に私は確かに見覚えがる。
何度も戦ったんだから、嫌でも特徴くらいは覚える。
クールでいつも気怠そうにしているピリアの印象とは裏腹な薄い桃色の髪と水色の瞳がオレンジがかった赤と青灰色の瞳に変わる。
私と同じくらいの体格は一回り小さくなって、小柄な女の子のような。お人形見たいな姿を私はよく知っている。
「私の名前は『ファルベガ』。こうやって挨拶するのは初めてよね?ルミナスメモリー」
ファルベガ。交易の街トゥランやエルフの里で戦った、目的を達成するためなら手段や方法を厭わない謎の少女。
分かっていたのは『災厄の魔女』の手下であるってことくらい、だった。
こんな形で、知りたくなかった。友人のもう一つの一面も、敵の正体も。
どうして、こんなことになってしまったのか。なんでよりにもよってピリアがそうなんだと、泣きたくなってくる。
でも泣いたところで事実は変わらない。それはお互いに分かっている。
「私は、貴女の敵よ」
冷酷に突き付けられる事実。ピリアがファルベガで私はルミナスメモリー。
友達が、敵だった。それも主義も主張も決定的に食い違う、どうしようもないくらい和解のしようがない敵。
サフィーリアさんもピリアも、友達だと思っていた人は2人とも私の敵なんだ。
その事実が痛みで動けない身体に更に重くのしかかって来た。




