千夜祭
距離を保ちながらシルトメモリーの盾に隠れ、ブラザーメモリーが足の遅いシルトメモリーのサポートに入る。
私は盾に隠れながら光弾を撃ち、時間を稼ぐ。今すぐ出来ることと言えばこのくらいだ。
とにかく時間を作り、状況を打破するための作戦なり、観察をして弱点を探る。
厳しい訓練を受けた中で体力とか筋力、戦闘の技術も学んだけど、真っ先に叩きこまれたのは戦ううえでの基本だ。
「足は止めない!! 移動しながら、出来るだけ地形を使って!!」
戦いは情報戦だ。敵を知る事はそのまま勝利に直結する。相手を観察して、癖や弱点を探りそこを徹底的に突く。
極端な話、嫌がらせをどれだけ出来るか。自分の強みを相手に押し付ける時間がどれだけ取れるか。それが勝敗を左右する。
正々堂々なんてクソくらえ。真白さんはそう言っていた。だから、まずはアズールさんの得意な距離からは徹底的に離れる。
「了解!!」
「来る!!」
大きな斧を軽々と片手で持ちながら、アズールさんが距離を詰めて来る。私達は逆に距離を取り、また光弾で時間を稼ぐ。
アズールさんは遠距離攻撃が苦手だ。得意な魔法は身体強化系を始めとした纏う魔法。身体や武器に魔法を纏わせてパワーで戦うインファイター。
訓練を受けた時、アズールさんは自分をそう分析して紹介していた。それはやっぱり事実みたいでこうして戦っていると世間一般が想像する魔法少女らしい戦い方を全くと言っていいほどしない。
ウチらの中で魔法少女みたいな戦い方をするのはアメティアくらいだって笑ってたっけかな。
つまるところ固定観念は捨てろって話だったんだけど、その話を聞けていて良かったとつくづく思う。
そうじゃなかったら私達は今頃ミンチ肉みたいにぐちゃぐちゃになっているだろうから。
「ぐっ……!!」
また振り下ろされた斧が地面を割り、追随した激流が私達を襲う。
水流だけでもの凄い圧力で盾を持つシルトメモリーとパワーと体格のあるブラザーメモリーがいなければ私はこれに押し流されている。
そうなったらお終いだ。たったそれだけで私達の勝ち目は完全に0になる。
「パリィ出来る?」
「イケるよ。動きが単調だからそんなに難しくない」
何度かそれを繰り返した後、シルトメモリーにパリィが出来そうか聞いてみると頼もしい返事が返ってきた。
パリィとは盾を用いたカウンターだ。
ゲームでもよくある仕様らしいけど、現実でも攻撃をする時には必ず力を込めて振りかぶる。
その攻撃をしてこようとするほんの一瞬。力を込める瞬間にこちらから盾をぶつけて体勢を崩す。
言葉にするのは簡単だけど、実際にやるのは難しい高等技術だ。
やろうと思ってやるには相当な訓練がいる。
「……っ!!」
またアズールさんが距離を詰めて来る。でも、今度は逃げない。
振りかぶられた斧を受け止める姿勢を取ったスルトメモリーに対して、何の慈悲もなく恐らく盾ごと私達を叩き斬るつもりなんだと思う。
「っだぁ!!」
気合い1発。気持ちの入った大声と共に突き出された盾は振りおろそうとした直前を捉え、ガキンッ!!と大きな金属音を立てて斧を後ろへと弾き飛ばした。
斧が後ろに吹き飛ばされたことでアズールさんの姿勢も大きく崩れる。
「おらぁっ!!」
間髪入れずにブラザーメモリーがアズールさんの懐に飛び込んでボディーブローを打ち込む。殴り飛ばすんじゃなくてズンっと重く、突き上げるような一撃でアズールさんの身体が浮き上がる。
ただし、それで止まるような人じゃない。
光の鞭で素早くブラザーメモリーを巻き取り、無理矢理アズールさんから引き剥がす。両手で握っていた斧から左腕が離れ、それが空を切るのが写り間一髪の判断だった。
体勢を崩され、身体が浮き上がるような一撃を喰らってもなお、アズールさんは一撃を見舞うための一手を打って来る。そもそもにさっきの攻撃もまともにダメージなんて入っていないだろう。
「――いってぇぇ~。まるで鉄でも殴ってるみたいだぜ」
手をぷらぷらとさせ、殴った手を逆に痛めたブラザーメモリーに軽い治癒魔法をかける。身体強化魔法の応用で身体を硬質化させる。
それもアズールさんが言っていた技術のひとつだ。私達にはまだ出来ない高等技術。
「無駄な頑張りをするのね。そういうところ、見ていて本当に虫唾が走るわ」
高みの見物を決め込んでいたサフィーリアさんがここでようやく口を開く。抵抗を止めない私達がお気に召さない様子で、その表情は見るからに不機嫌そうだった。




