千夜祭
「う、ぐ……」
魔力の衝撃波に吹き飛ばされ、地面に身体を強かに打ち付けた鈍い痛みとそれに合わせて放たれた熱気が肌を焼き、ヒリヒリと針で刺されたような痛みが襲いかかって来る。
「……パッシオ」
治癒魔法で特に酷いところを治療しつつ、変貌を遂げてしまった相棒を見上げる。
体高もかなり高くなっている。元々イタチやリスを大きくしたような姿をしていた本来の姿のパッシオの体高は精々大柄な中型犬程度。
身体小さな私だから乗ることが出来るけど、今や私達の中でも1番背の高い朱莉や元々背の高い千草は跨っても地面に足が着いてしまうくらいの高さだ。
それが、見上げるほどの高さになる程に大型になっている。
もはやイタチやリスというよりはキツネに近い。
「無様、無様、無様!! いい気味だわ。仲間が敵になる瞬間を見てどう? 何にも出来ない無能なお・ひ・め・さ・ま」
ベンデの煽りなんてどうでも良い。所詮は強がりだ。今この状況で1番命の危機に瀕しているのは彼女なのだから。
ああやって自分に有利な状況なんだと自分に言い聞かせないと自己の万能感を保てないんじゃないかしら。
ショルシエとその分身体はプライドで生きているような生き物。こうやって自分の優位性が消えかければ脆い。
ただ、ベンデの言うことにも一理はある。みすみすとパッシオがこんな姿になってしまったのを見ていることしか出来なかった。
ここまで共に戦ってきたかけがえのない相棒が。
「ごめんね、パッシオ……」
「グアァアァァァッ!!」
誰よりも大切な人がこんな姿にされているのに、私には何も出来ないどころか解決策のひとつも浮かばない。
分かっているのはショルシエが何かをしたということだけ。
妖精界全体を揺るがすような何かが起きている。特に妖精という種族に限定した何かが。
「さぁ、本能のままに蹂躙なさい!!目の前にいるのは大事な大事な、お前が喉から手が出るほど欲しい女よ!!」
ベンデに煽られるようにして飛び出したパッシオが私に踊りかかる。
何年か前にも似たようなことがあったっけ。
覆い被さるように私へと近づいて来るパッシオを見ながら、私は呑気にそんなことを考えていた。
あの時は弟の真広が『ノーブル』のシャドウとして活動していた頃の出来事だ。
路地裏で魔力切れを起こした私を連れ去ろうとした相手がまさか弟だなんであの時は思いもしなかった。
今回もそうだ。まさか、パッシオにこうして牙を剥かれていることなんて少し前の私には想像もつかないことだろう。
「……ごめんね」
こうなったのは私のせいでもあるだろう。大人しくブローディア城にいれば少なくともここまで状況は酷くなかったハズ。
根本的な原因とは言わない。でも誘発させたのは私だ。そして、止められなかったのも私。
あぁ、なんて情けない。普段から偉そうにしておきながらこの始末だ。
呆気ない幕切れとはこのことだろう。
だけど、そうね。
パッシオにされるなら、まだ良いかな。
どうしようもない。避けようも変えるための力を発揮することも出来ない。
「ーーッ!?」
パッシオ相手にどうこうする気持ちも起こすことが出来ず、諦めようとしていた私の意識を覚醒させたのは一際大きな銃声だった。
私に触れる直前のパッシオの手を撃ち抜き、その動きを止める。
何が起こったのかはまたわからないまま。だけどそれがノワールの星属性の魔弾であることだけは理解する。
一体どこから狙撃したのか。まだあの子は隣国のスフィア公国の首都にいるはずなのに。
【真白さん!!『繋いで』ください!!】
何もわからないまま、ただこの好機に身体だけは反応する。次に耳に聞こえてきたのはイキシアを介した通話越しに聞こえるアメティアの声。
『繋げて』と、言われるがままに私は咄嗟にパッシオと私を『繋がりの力』で繋げた。




