千夜祭
連打に次ぐ連打。強烈な物理攻撃と高温の炎の合わせ技をこうして相手にするとパッシオがどれだけの使い手なのかというのが嫌なカタチで良く理解させられる。
熱を防ぐ為の障壁は高温に耐えられずに数十秒おきに割れているし、炎弾も障壁を五重に重ねてようやく落ちる。
尾と炎の合わせ技。特に貫通に特化した刺突に炎を纏わせた攻撃は薄い障壁では何枚重ねても無意味。
止める事は出来ないので横から叩いて直撃を逸らす、逸らした先でまた障壁で受け流す。
これが5本。炎弾も交えてだ。今は問題ないけど距離を詰められればここに格闘戦も加わる。
「せめて、きちんと変身さえ出来れば……!!」
状況をより悪くしているのは、私が半端に変身していることにある。
変装も兼ねた変身してるけど変身していない、半端な状態でいた私は魔法少女としての最大能力で戦えていない。
いつも半分以下の出力しか出せていない。魔法少女の変身は自分の持つ魔力弁を解放すること。
これを半端に開けるという器用な真似がまさかの悪手になるなんて、誰が想像がつくだろうか。
妖精の血が混じっている私は平常時でも魔法は使える。でもそれは非常に低い出力でしか使えない。
半端に変身している今はそれよりはマシってだけ。
「チェンジ!! フルールーー」
「ゴアァッ!!」
「クソっ!!」
無理矢理に変身しようとスマホ型の魔法具『イキシア』を手に取るけど、パッシオの攻撃の手は緩まない。
むしろ苛烈さを時間をかけるごとに増して行き、このままではいずれ防ぎきれなくなることは明白だった。
詰んでいる。素直にそう思った。いつもならこの数瞬をパッシオが稼いでくれる。
だけど、今はそのパッシオが私の目の前に立ち塞がっている。
どうしてこんなことにという困惑に時間が経つにつれて焦りも増して来る。
打開策がどんなに考えても打ち出せない。旧王都『サンティエ』のあちこちで同じようなことが起こっている様子は黒煙が上がる様子から嫌でも理解させられる。
これでは増援も見込めないだろう。レジスタンスや魔法少女達は今、無数に起きている緊急事態の対処で手一杯だと思う。
何が起こっているのか誰も正確に把握出来ないまま、私と同じように味方だと思っていた人達に牙を向けられていたとするなら、状況は深刻を通り越して最悪だ。
こんなことになるなら大人しくブローディア城にいるか、変身しきってしまえばよかったと後悔するけどそれはもう遅いこと。
ただ状況だけが悪くなっていく。それにつれて中途半端な自分が恨めしくなる。
状況が悪くなればなるほど思考がネガティヴになっていく。妖精と人間のハーフでなければ、王族としての自覚をしっかりもっていれば。
何かと浮かぶのは自分の中途半端さだ。何かとどっちつかずの自分がしっかりしていれば。そんなことばかりが脳裏に浮かんでは消えていく。
集中出来てない。パニックと状況の悪さと何よりパッシオが私に襲いかかって来ている目の前の光景を考えないようにしているのかもしれない。
「随分と手を焼いているみたいですねぇ」
「……!! ベンデ!!」
「あら、私のことを気にしてる場合ですか、お・ひ・め・さ・ま」
手詰まり、打開策を見出せずにいる私の耳にこちらをバカにしたような猫撫で声が入ってくる。
その方向に視線を移せば、建物の上から扇子で口元を隠して薄ら笑いを浮かべているショルシエの分身体。
五本尾のベンデの姿があった。
やはりこの事態はショルシエ側が仕掛けた何かだというのは確定のようだ。
それでも、それをどうやって引き起こしたのかはわからない。隷属紋でない、新しい人を操る技術なのかと勘繰るものの魔法はそんなに便利じゃないのは誰もがわかっていること。
前準備があったにしても、一体いつからなのかさっぱり見当がつかないのは変わらなかった。




