千夜祭
「お疲れ様です!!」
ビシッと敬礼して挨拶をしているのは昴さん。相変わらず元気な子でハツラツとしてる様子は舞ちゃんによく似ていると常々思う。
「お忍びっすか姫様」
「まぁね。一度くらいは間近で見てみたいじゃない?」
「王家の方だからといって、参加できないのも勿体ないですもんね」
一緒にいるのはいつも通り鳥人族のリベルタさんとエルフのリリアナさん。
昴さんとのパーティーメンバーでもある。今のところ、3人1組のパーティーは荒削りながら中々良いセンをいっている、といったところか。
保護者役でもあるのだけど、千夜祭を前にすると彼らも浮き足だっている様子。
商業都市であるトゥランと、エルフの森がそれぞれ出身の2人は妖精界生まれでも旧王都の千夜祭は私と同じで初めてらしい。
「エルフ族でも千夜祭はやっているんですか?」
「もちろんです。でも、こんなに大きなお祭りには出来ませんでした。精々、いつもより豪勢な料理が食べられるくらいでしたけど」
特に森の中で引きこもっていたエルフ族の千夜祭とはその規模はまるで違うものの様子。
3人と一緒に行動していたサフィーリアさんの質問に目をキラキラさせながらリリアナさんはテンション高めに答え、あっちこっちに1番ちょろちょろと歩き回っている。
「悪いね、真白のワガママに付き合ってもらって」
「私達は全然大丈夫です!! お祭りは一緒にいる人が多いほど楽しいと思いますし!!」
「ただまぁ……、なんで団長はそんな格好になってんだ?」
「変装の一環だよ。いつもの姿でいたら隣にいるのは真白だとすぐバレるからね」
無理を言った私のワガママに付き合ってくれる彼女達は本当に良い子達だ。
普段の訓練も貪欲に取り組んでいて、私からのマンツーマンレッスンにも歯を食いしばりながらついて来ている。
最初の頃は訓練後はへろへろだったけど、今じゃちょっとやそっとじゃ倒れない。
今朝だって訓練したけど、みんなぴんぴんしているしね。
「パッシオ様も大変ですね」
「コイツが真白に振り回されてんのはいつものことさ」
「事実だけどそう言われると複雑な気分になるね」
なお、今回の件に関しては本当に完全に私のワガママなので、何らかのカタチで付き合ってくれたみんなには何か補填をしようも思う。
断られる予感もしてるけど、一応、ね?
「それにしても本当に綺麗」
「だな。まるで花吹雪の中にいるみたいだぜ」
「異世界のお祭り、って感じですね!!」
立ち話ばかりしてもなんだし、私達はゆっくりと歩き始める。
見渡す限りの花びらがずっと舞い続けている光景は幻想的で、人間界では見ることの出来ない光景だと思う。
その中でたくさんの人達が歌って踊って、飲んで食べての大騒ぎ。
屋台も幾つか出ていて、工芸品からよくわからないもの。千夜祭の間だけの日用品の特売だったり、食べ物や飲み物だったり。
何というか、一言で言うとカオスだ。美しい光景の中には住人達のしっちゃかめっちゃかなどんちゃん騒ぎが繰り広げられていて、そのギャップもなんだか面白い。
「お祭りの見どころ的なものはあるのかな?」
「見どころ、ですか。そう言われると難しいですね。この光景自体が見どころではあると思いますけど」
「そもそも人間界のお祭りとはちげーからな。人間界の、特に日本の祭りは神事の延長だからな」
「千夜祭は戦勝を祝ったお祭りだものね。催しもの自体が無いんじゃない?」
昴さんの疑問から人間界のお祭りとの差についてあれやこれやと予想する。
またそうやって考察みたいなことをして、面白みがないように見えるだろうけど、妖精界と人間界の差をこうして目の当たりにしてその差を考えるという行為は案外楽しいものだ。
「見て回る、一緒に騒ぐ、がこの祭りを楽しむ秘訣さ。人間界でも夏にあるんじゃなかったっけ?やぐらを囲んでみんなで騒ぐお祭り」
「「「……あぁ、盆踊り!!」」」
なるほど、ルーツは違くても概ね似たような感じだ。そうと決まれば、楽器をじゃかじゃかと鳴らして歌えや踊れとやっている目の前の広場に飛び込むのが1番だ。
頭を空っぽにして、全員でその輪に飛び込むと、周りの人達と踊りながら歌って笑う。
「楽しいね」
「そうだね」
肩に乗るパッシオにそう言いながら、くるくると回ると皆笑っている風景がよく見える。
この光景がずっと続いてほしい、続けなきゃいけないなと静かな決意を胸に私はお祭りを楽しんだ。




